人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
私からの問いかけに答えようとしたスヴェンは、すぐ近くにいるアランに一瞬視線を向けた。

それでこの会話が監視下に置かれることを察したのだろう。

言葉を選ぶように口を開く。

「もちろんアリシア様にお目にかかりたかったからですよ。使者の権利を勝ち取ってここに参りました」

「あら、そうなの? でもその甲斐あって久しぶりに会えて嬉しいわ」

「私もお会いできて嬉しいです。……ただ、私はアリシア様に謝りたいこともあるのです」

「謝りたいこと?」

そう言われても私には全く心当たりはなかった。

むしろ教えてくれた護身術が実践で役に立ったことを報告してお礼を言いたいくらいだ。

スヴェンはそんな私の気持ちとは裏腹に、悔しげに一度目を伏せ、それから再び私を見た。

「……あの時、あの戦争に負けなければ、アリシア様がユルラシア王国に行くことにはならなかったのに……と悔やんでいます。その、今のご状況は存じています。だからこそ、あの場で指揮官の1人として戦った身として謝罪したいのです」

言葉を濁して”今の状況”とスヴェンは言ったが、おそらくこの人質生活およびお飾り妃になることが確定した婚姻を指しているのだろう。

それをあの戦争の場にいた当事者としてスヴェンは責任を感じているようだった。

「スヴェンが気に病むことではないわ。むしろあの戦争から無事に帰ってきてくれて本当に良かったと思っているの。私はスヴェンの帰還前にリズベルト王国を発ったから心配してたのよ。それに今の生活は悪くないのよ? とても恵まれていて満足しているわ」

「満足、ですか……?」

「ええ、リズベルト王国にいた時と同じように自分の部屋に籠って好きなようにさせてもらっているの」

「同じように、部屋に籠って好きなように……」

スヴェンは私の言葉をつぶやくように復唱し、チラリと私が顔を隠すために付けているベールを見た。

それで大体のことを察したのだろう。

「アリシア様も相変わらずでいらっしゃるのですね。部屋に籠って、侍女が王都の城下町で体験してきた話を聞くのを楽しみにしているのですか?」

(訳: 相変わらず、侍女になりすまして王宮を抜け出して城下町に行っているのですか?)

「ええ、そうよ。この国の城下町は興味深いところでね、侍女の話を聞くのはとても楽しいのよ?」

(訳: そうよ。この国でも城下町で色々楽しみを見つけたのよ)


監視役としてアランが耳を傾けているから、私たちは私たちにしか分からない表現で話をする。

きっとアランには私がきちんと人質として部屋に籠った生活をしていて、なおかつ今の生活に満足していると伝わっていることだろう。
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