人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「それは良かったです。私もぜひその興味深いこの国の城下町を訪れてみたいものです。実はまだユルラシア王国からの書簡の返答を待つためにこの国にしばらく滞在いたします。なので、せっかくなので城下町に行ってみようと思うのですが、アリシア様は侍女の話を聞いてどこがおすすめですか?」  

(訳: しばらくこの国にいます。その間に城下町でお会いしたい。どこに行けば良いですか?)


その言葉に一瞬口ごもる。

本来人質として部屋に籠っているはずの私が王宮を抜け出した先で自国の貴族とこっそり会うのは許されることだろうかと躊躇した。

陰謀の企てをするなどやましいことをする気はスヴェンも毛頭ないのだろうが、やましいことをしているような気分になりそうだと思ったのだ。

「私はあの戦争に行く前に自国で城下町に最後に訪れずに後悔したのです。なので、今回はわざわざ遠路はるばるこの国に来たので、ぜひこの国の城下町に訪れてみたいと思っています」

(訳: このままアリシア様に会えずに自国に帰ったら後悔しそうです。お願いします、会ってください)

かなり遠回しな表現で言葉を交わしていたが、スヴェンの言わんとすることは私には分かった。

彼の言葉の端々からはいまだに私がこの国に来ることになったことへの後悔が滲んでいるように感じる。

 ……一度ちゃんと会って率直な言葉で会話した方がいいかもしれないわね。このままだとスヴェンがずっと気に病んでいそうだもの。


「分かったわ。そうね、侍女の話によると、フォルトゥナという名前の酒場が城下町で話題になっているみたいよ。私も叶うものならぜひ一度行ってみたいと思ったからおすすめよ。酒場だけど昼営業もしているらしくて、その時間帯が穴場らしいわ」

(訳: フォルトゥナという酒場で落ち合いましょう。時間は昼営業の時間ね)

「なるほど、それは気になりますね。ぜひ伺ってみます。私はおそらく1週間ほど滞在するので、いつでも行く時間は取れそうです」

(訳: 分かりました。そこに伺います。1週間ほど滞在しますが日程はいつにしますか? 私はいつでも大丈夫です)

「スヴェンが城下町を散策する日が天候にも恵まれるといいわね。そういえば2、3日後は天気が良さそうだと耳にしたような気がするわ。本当かは分からないけれど」

(訳: 2日後か、3日後になると思うわ)

「そうですか。天候ばかりは運頼みな部分がありますからね。天気が良いのを祈るばかりです」

(訳: 分かりました。何事もなく、お会いできることを心から願っております)
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