人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ふふっと笑みをこぼしながらそう言うと、スヴェンは私が本心で話していることを感じ取ったのだろう。

顔に浮かべていた後悔の表情が少し和らいだ気がした。

「シア様のお心は分かりました。もうこれ以上、私が後悔を感じるのは控えます。そうしないとシア様が気に病まれるでしょうから」

「その通りよ。本当に私は今の生活に満足なのだから、スヴェンが気にしないでちょうだい。罪悪感を感じている顔は見たくないわ」

「ええ。仰せの通りにします。……ですが、一つお願いがあります」

「お願い?」

「はい。正式に婚姻されたら、私をこの国に呼び寄せてください。シア様のお側で仕えたいのです」

思わぬ申し出が飛び出し、私は目を見張る。

いきなりなぜこんなことをスヴェンは言い出したのかさっぱり分からない。

私が不可解な表情を見せたためか、スヴェンはさらに言葉を重ねる。

「今は未婚の女性の側に、自国から連れて来た未婚の騎士がいるのは外聞もよくありません」

「確かにそれはそうね」

「ですがシア様がご結婚されれば別です。……もしそれでも未婚の騎士だと差し障りあるようであれば私も身を固めます」

「えっ⁉︎ というか、そもそもスヴェンはリズベルト王国の騎士団の副団長という要職に就いているし、侯爵家の後継じゃない。ユルラシア王国に来るなんて無理よ。すべてを捨てることになるわ」

本気か冗談か分からないが、早まったことを言うスヴェンを思いとどまらせようと焦って私は今スヴェンが持つものを指摘する。

家や職はそんなに簡単に捨てられるものではないはずだ。

だが、スヴェンはなんの躊躇も見せることなく、しごくアッサリと切り捨てた。

「問題ありません。職は実力でこの国でも得られなくはないですし、家は弟がいるので後継は大丈夫です」

「ええっ⁉︎ 本気……⁉︎」

その潔いまでの発言に驚かされるのはこちらだ。

スヴェンの口調や目、態度、すべてから本気度をヒシヒシと感じ、狼狽えてしまう。

「は、早まっちゃダメよ……! 私に仕えてくれてもたぶん良いことはないわよ? 一応このままいけば半年後には王太子妃、そして後々は王妃にはなるけれど、それはあくまで形式上。完全なお飾りよ? たぶん側妃が子を産むだろうから、そうなればますます私の立場は王宮で弱いものになるわ。その私に仕えていたらスヴェンまで被害を被るかもしれないし……」

私はこの先待ち受けている自分の未来を言って聞かせる。

こんな分かりきった状況なのに、そこに輝かしい未来があるはずのスヴェンを巻き込みたくなかった。
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