人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「だからこそお側で仕えたいのです。昔からシア様を知る者がライラだけでなく、もう1人いるとさらに心強いのではありませんか?」

「それはそうだけど……」

「それに婚姻された暁にはベールを取られるのですよね? そうなればいくら寵愛を一身に受けている側妃でも心穏やかではいられないと思うのです。シア様はお美しいですからね。嫉妬に狂った側妃がシア様に危害を加えないとも限りません。騎士である私がいればお守りできます」

「確かにその事態が絶対にありえないとは言い切れないけれど、でもやっぱりダメだわ。スヴェンはリズベルト王国の武力の(かなめ)だもの」

「ユルラシア王国とは同盟になりましたので、しばらく大きな戦いもないでしょう。であれば私が抜ける程度の武力低下は問題視されないと思います」

ああ言えばこう言うスヴェンは、私の言葉をことごとく言い返してくる。

そのどれもが筋が通っていて、ついに私は口ごもってしまった。

「ご同意頂けたようですね。それでは、お願いを叶えて頂けますか?」

私が黙ったのを見て、納得をしたと理解したスヴェンは話をまとめるように私に問い掛けてくる。

でもやっぱりスヴェンを私の未来に巻き込むのはどうかと思う私は、苦し紛れにあり得ない未来を仮定して問い返した。

「私がお飾りの妃になるから、スヴェンは罪悪感もあって仕えたいと言ってくれてるのでしょう? じゃあ、仮に私が誰から見てもものすごく幸せな状況になったとしたら? それでもスヴェンは私に仕えたいと言うの?」

「それはお飾りではなく愛のある婚姻を結び、皆から愛され認められるような妃になったらということですか?」

「そうね、そんなこともあるかもしれないわよね?」

天変地異が起きても絶対にないだろうが、話を進めるために私は肯定してみる。

スヴェンは何事かを少し考える素振りを見せた上で口を開いた。

「もちろんお仕えしたいです。……ただその場合は、シア様の夫である王太子様が私の存在を不快に思われないのでしたら、という前提にはなるでしょうね」

「つまり、なにがなんでもこの国で私に仕えるということではないってことよね?」

「そうなりますね」

 ……スヴェンを思い止まらせるためには、私が幸せを見せつけるしかないってことね。う〜ん、でも愛のある婚姻云々は無理だろうから、狙い目は皆から愛され認められる妃って部分かしらね?

大人しくしているつもりだったから考えたこともなかったが、たとえお飾りの妃でも、何かしら周囲の人から認めてもらえるように動くこと自体は可能かもしれない。

苦し紛れから始まった仮定だったけど、スヴェンを早まらせないためだったら、頑張ってみてもいいかもしれないと私は思った。
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