人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「分かったわ。それなら私はスヴェンがこの国に来なくても良いと思うくらいの幸せを掴んでみるわ! だから、早まらないでちょうだいね? とりあえず半年後、また話し合うことにしましょう? 今のタイミングではお願いは保留ね!」

私はこう締めくくると、これでこの話をスパッと終わらせる。

スヴェンも致し方ないと諦めたのか、素直に頷いてくれて、なんとか保留にすることができた。

思わぬ申し出によりスヴェンと攻防を繰り広げた私は、なかなか疲労していたようで、スヴェンが帰った後フォルトゥナでの昼営業を終えるとこの日はまっすぐ王宮に戻ることにした。

いつもなら午後は城下町をふらふらと歩き回ることが多いのだが、とてもそんな気力と体力はなさそうだったのだ。

 ……影武者を務めてくれているライラも早く帰る方が喜ぶものね。大人しく帰って、部屋でライラに今日のスヴェンとの攻防戦を話そうっと。ライラもスヴェンの話は聞きたいだろうしね。

使者としてスヴェンが来た話をした時も懐かしそうな顔をしていたライラを思い出すと、早く話したくなって私は乗り合い馬車に乗りそそくさと王宮へ戻る。

この半年、もう何度も抜け出しているので、王宮内を素顔を晒して何食わぬ顔で歩くのも慣れたものだ。

ライラの部屋への出入りだけは毎回慎重に行い、街歩き用のワンピースから侍女服に着替え、自室の窓のあるところへ向かう。

小さな石を窓へ投げると、コツンと鳴った音に反応して、すぐさまライラが窓の中からロープと手袋を落としてくれる。

それを使って2階まで登り、窓から部屋の中へと滑り込んだ。

「いつもありがとう、ライラ。今日は早く戻ったのよ。ライラにスヴェンの話をしたくって」

「…………」

「スヴェンったらいきなり思いもよらないことを言い出すものだから本当驚いたわ。ね、気になるでしょう?」

「…………」

部屋に到着するなり、私はライラに笑顔を向けて話し掛けたのだが、なぜかライラは黙ったままだ。

いつもなら呆れながら小言を漏らすなり、楽しそうに話に乗ってくるなりするはずなのに。

明らかに不自然なライラに、私は首を傾げて、注意深くライラを観察してみる。

王女らしい華やかなドレスに身を包み、ベールで顔を隠したライラは、一見するといつも通りの影武者姿だったのだが、よくよく見ればなぜか小刻みに体が震えているようだった。
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