人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「ライラ? 震えているようだけど寒いの? 具合でも悪い……?」

「………アリシア様、申し訳ありません」

絞り出すようにライラから発せられたのはなぜか謝罪の言葉だ。

全く訳が分からず、状況が読み込めない私はただ尋ねるしかない。

「どうしたの、ライラ? 具合が悪くても私に謝る必要なんてないのよ? それとも何か別のことを言っているの……?」

「……とりあえず、そのままこちらにお越しください。それでお分かり頂けます」

ライラはそれ以上語らず、今いる寝室から応接間の方へ私を促す。

なぜ応接間へ?という問いは、震えながらあまりにも身を縮めて恐怖しているような雰囲気のライラに聞けなかった。

信頼をおくライラに言われるがままにそちらへ向かった私は、応接間の扉を開けた瞬間、全身が金縛りにあったかのように固まってしまった。

なぜなら、無人のはずのその場に人がいたからだ。

しかも《《両方の私》》をよく知る人物が。

その人物はソファーから立ち上がると、艶めくような黒髪をわずかになびかせ、こちらへ歩いてくる。

スラリとした長身が私の目の前で立ち止まり、真紅色の瞳が私を見下ろした。

「やっと正体が分かりましたよ。訳アリ貴族のシア。……いいえ、アリシア・リズベルト様?」

形の良い唇から紡がれた言葉は、もう何もかもを察したようなものだ。

 ……ああ、バレてしまったのね……。
 
どういう経緯があったのかは分からないが、彼は知ってしまったのだろう。

そして影武者を務めるライラは事実が明るみになってしまったことに酷く怯えているに違いない。

そう悟った私は観念するかのように肩の力を抜くと、彼の完璧に整った顔を見つめた。

王女アリシアとして、彼をこんなふうに見上げるのは初めてではないだろうか。

いつも彼は臣下の姿勢を保っていたから、私を見下ろすようなことはなかったのだ。

「ロイド……」

「さぁ、どういうことか説明頂けますね?」

「ええ、分かったわ」

ベールを脱いだ素顔の王女アリシアの状態で、私はロイドと初めて向き合う。

そして、これまでのことを素直に白状する覚悟を決めたのだった。
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