人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「さっきの義母とエレーナの会話で察したかもしれないけれど、半月後に婚姻先であるユルラシア王国に行くことになったの。正確には婚約者として1年過ごしてその後に結婚となるのだけどね。それで、出発の準備をお願いしたいのだけど、手伝ってもらえる?」
「やっぱり陛下からのお話はそういうものだったのですか。でもあの方々がおっしゃっていたように、人質生活な上に、愛される見込みもない結婚だなんて……。アリシア様への扱いが最後まで酷すぎますっ!」
「ライラは悲観的ね。愛のない結婚なんて貴族であれば珍しくもないじゃない。それに人質生活と言うけどきっと大して今と変わらないわよ。むしろ身内から離れられることを思うと、楽になるくらいじゃないかしら?」
そう、散々言われたこの婚姻だけど、私は割と前向きに捉えていた。
身内から蔑まれてチクチク言われるのは地味にダメージを負うが、他国に行けばそういうこともなくなる。
貧乏だった前世では海外旅行に行くことも叶わずだったことを考えると、他国に行けるなんてちょっとした贅沢だ。
「……もしかしてあちらの国でも今のように城を抜け出すことをお考えではないですよね?」
「ふふっ、ライラはなんでもお見通しね。さすがに婚姻してしまえば難しいでしょうけど、1年の婚約期間であれば可能ではないかしら? 今のようにベールで顔を隠しておけばいいだけだもの」
「はぁ、アリシア様らしいというかなんというか。心配すぎるので、もちろん私もあちらの国へお供させて頂きます。侍女がついて行くのは問題ないのですよね?」
「えっ? ライラが一緒に来てくれるの?」
「抜け出すなら私がいた方が良いのではありませんか?」
「それはそうだけど……ライラの婚期が遅れちゃうわよ?」
ライラは今21歳だ。
すでに女性の結婚年齢の平均を越えているが、元敵国である他国へ行くとなればますます結婚とは縁遠くなるだろう。
「別に構いませんよ。私は結婚したいとも思っていませんし、せいぜいアリシア様の側で良い思いをさせてもらいます」
キッパリ言い切るライラに私は胸が熱くなる。
どんなに強がっていても、未知の世界に1人で足を踏み入れることに不安がないといえば嘘になる。
だから、正直ライラが一緒に来てくれるのはとても心強かった。
「……今までだって良い思いなんてしたことないくせに」
「高価な甘いチョコレートやクッキーをお裾分けしてくださるだけで充分ですよ」
「分かったわ。ユルラシア王国の甘味も絶対食べさせてあげる! 我儘言って珍しいものも全部集めてもらうんだから!」
「それは楽しみです。さぁ、それではさっそく出発に向けて準備を始めましょう。半月なんて意外とすぐですからねっ!」
私たちは顔を見合わせるとふふっと笑い合い、持って行くもの捨てるものの話し合いを始めた。
そしてその半月後、予定通りに私はライラ一人を連れ、最低限の護衛に囲まれて馬車でユルラシア王国へ向けて城を旅立った。
見送りに顔を出す身内も、臣下も、民もいない。
隠されるように王宮の離れで育ち、いないものとして扱われた嫌われ王女は、ひっそりと生まれ育った国をあとにしたのだったーー。
「やっぱり陛下からのお話はそういうものだったのですか。でもあの方々がおっしゃっていたように、人質生活な上に、愛される見込みもない結婚だなんて……。アリシア様への扱いが最後まで酷すぎますっ!」
「ライラは悲観的ね。愛のない結婚なんて貴族であれば珍しくもないじゃない。それに人質生活と言うけどきっと大して今と変わらないわよ。むしろ身内から離れられることを思うと、楽になるくらいじゃないかしら?」
そう、散々言われたこの婚姻だけど、私は割と前向きに捉えていた。
身内から蔑まれてチクチク言われるのは地味にダメージを負うが、他国に行けばそういうこともなくなる。
貧乏だった前世では海外旅行に行くことも叶わずだったことを考えると、他国に行けるなんてちょっとした贅沢だ。
「……もしかしてあちらの国でも今のように城を抜け出すことをお考えではないですよね?」
「ふふっ、ライラはなんでもお見通しね。さすがに婚姻してしまえば難しいでしょうけど、1年の婚約期間であれば可能ではないかしら? 今のようにベールで顔を隠しておけばいいだけだもの」
「はぁ、アリシア様らしいというかなんというか。心配すぎるので、もちろん私もあちらの国へお供させて頂きます。侍女がついて行くのは問題ないのですよね?」
「えっ? ライラが一緒に来てくれるの?」
「抜け出すなら私がいた方が良いのではありませんか?」
「それはそうだけど……ライラの婚期が遅れちゃうわよ?」
ライラは今21歳だ。
すでに女性の結婚年齢の平均を越えているが、元敵国である他国へ行くとなればますます結婚とは縁遠くなるだろう。
「別に構いませんよ。私は結婚したいとも思っていませんし、せいぜいアリシア様の側で良い思いをさせてもらいます」
キッパリ言い切るライラに私は胸が熱くなる。
どんなに強がっていても、未知の世界に1人で足を踏み入れることに不安がないといえば嘘になる。
だから、正直ライラが一緒に来てくれるのはとても心強かった。
「……今までだって良い思いなんてしたことないくせに」
「高価な甘いチョコレートやクッキーをお裾分けしてくださるだけで充分ですよ」
「分かったわ。ユルラシア王国の甘味も絶対食べさせてあげる! 我儘言って珍しいものも全部集めてもらうんだから!」
「それは楽しみです。さぁ、それではさっそく出発に向けて準備を始めましょう。半月なんて意外とすぐですからねっ!」
私たちは顔を見合わせるとふふっと笑い合い、持って行くもの捨てるものの話し合いを始めた。
そしてその半月後、予定通りに私はライラ一人を連れ、最低限の護衛に囲まれて馬車でユルラシア王国へ向けて城を旅立った。
見送りに顔を出す身内も、臣下も、民もいない。
隠されるように王宮の離れで育ち、いないものとして扱われた嫌われ王女は、ひっそりと生まれ育った国をあとにしたのだったーー。