人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
「私はね、髪色が王家特有の色ではないことからリズベルト王国では不義の子と言われているの。一応れっきとした王族だけど、王族の扱いを受けていなくって、いない者扱いだったわ。ベールは、物心ついた頃に妹から顔を隠せって命令されて付けるようになったの。私の悪評が流れているのは身内が言いふらしたからだと思うわ」

私がありのままに事実を語ると、ロイドは驚いたように目を見開いたのち、黙りこくった。

肉親をどう思われようとどうでも良かったが、もしかしてこれを言ったことでリズベルト王国がユルラシア王国を軽視していると思われたのではないかと、言ってからはたと気づいた。

急いで私は補足を重ねる。

「あ、でもそんな私がエドワード殿下の婚姻相手としてこの国に来たことが、ユルラシア王国を軽視しているということではないのよ……!」

「…………」

「本当は妹のエレーナの方が良かったのだろうけど、エドワード殿下には寵妃がいるというのはこちらも把握していたからむしろ邪魔にならない私の方が良いだろうという判断だったみたい。つまりユルラシア王国を尊重してのことだから悪く捉えないでね……!」

ロイドはエドワード殿下の側近だし、この国の王位継承権を持つ高位貴族だ。

自国を軽く扱われたと感じれば不快に思うことだろう。

 ……ちょっと配慮が足りなかったかもしれないわ。自国で王族扱いされていない王女だと人質価値も低いし、同盟のための婚姻としても微妙に感じるかもしれないわよね。

よくよく考えて申し訳ない気持ちになり、ロイドに続いて黙りこくってしまった。

しばし沈黙が訪れたその場を先に脱したのはロイドだ。

「……私はユルラシア王国を軽視されたと不快に感じているわけではありません。ただ、アリシア様のこれまでの処遇に驚いたのです。アリシア様はいつも明るく前向きで、まさかそのような境遇でいらっしゃったとは思いもしませんでしたから」

そう言われてまぁ確かに普通はそうかもしれないなと思う。

王女なのにそんな扱いを受けていたら卑屈になったり、暗くなったりしていてもおかしくない。

私がそうならなかったのは、ひとえに前世の記憶があったゆえだろう。

「王族扱いされていなかったと言っても、今と同じように衣食住に不自由はしなかったし、それって素晴らしく恵まれていることでしょう? それに誰も私を気に掛けなかったからこそ、自由に王宮を抜け出して好きなことができたの。一見ひどい境遇に聞こえるかもしれないけれど、何事も良い面はあるのよ」

「……実にアリシア様らしいですね」

ロイドは困ったような顔をしながら、わずかに笑顔を浮かべる。

いつも冷静でクールなロイドが笑顔を見せるのは珍しく、私は思わず目を奪われた。

 ……本当にロイドはきれいな顔してる。作り物めいた美貌が笑うと少し人間味が出る感じがするわね。
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