人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
私がじっとロイドの顔を見つめていると、ロイドがコホンっと軽く咳払いをした。

いつもはベールをしているから相手をまじまじと観察していてもバレないが、今日はベールがないから丸見えだったことを思い出す。

 ……あ、ちょっとじっくり見過ぎちゃったわね。

バツが悪くなりそっと視線を逸らしたところで、ロイドが話を戻すように口を開いた。

「……これまでの事情などは分かりました。それで今後のことですが……アリシア様はどのようにお考えですか?」

そう、肝心なのはここからだ。

これまでは本題を話し合うための前座みたいなものだろう。

私はゴクリと唾を呑み、叶わないかもしれないが希望をありのまま述べてみることにした。

「できれば、これまで通りに過ごしたいと思っているの。だからロイドには見逃してもらえると嬉しいというのが本音よ。ただ、もちろん永遠にというわけではないわ。……エドワード殿下と婚姻するまで、あと半年の間だけ、見なかったことにしてもらえないかしら?」

「エドワード様との婚姻まで……あと半年、ですか……」

「ええ。そこが限界なのは理解しているの。もともとそのつもりだったから」

「……それは婚姻する際にはベールを取り、顔をさらけ出すことになるから、ということですか?」

「そうよ。さすがに王太子妃になって顔を隠してやっていくなんて無理だもの。リズベルト王国の伝統だからという言い訳も苦しいでしょうしね」

「そうですね……」

一度目を伏せて口を閉ざしたロイドは、私の希望を吟味するように何かを考えている。

その様子を見ながら、私はまるで裁判官の判決を待つ被告人の気分だ。

この返答次第で、この先半年の私の生活は大きく変わるだろう。

若干ソワソワしていると、ついにその判決の時がやってきた。

ロイドが顔を上げ、私の目をまっすぐに見て、ゆっくりと口を開いた。

「分かりました。あと半年、目を(つぶ)りましょう。見なかった、知らなかったことにして私の胸の内で留めておきます。ただ一つだけ、条件があります」

「条件?」

「さすがに王女であるアリシア様に護衛がいないのは危険です。以前も人攫いに合いかけていましたよね? ですので、身を守る護衛を付けることと、王宮を抜け出す時は私が把握できるようにすることが条件です」

「それは確かにそうだけど……。でも王宮の人間には秘密にしないと……。現状、このことを知っているのはこの国だとライラだけよ?」
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