人質生活を謳歌していた虐げられ王女は、美貌の公爵に愛を捧げられる
ロイドの言う条件はもっとものことだが、秘密は知る人間が少なければ少ない程安全だ。

今後王太子妃となることを考えても、弱味になりかねないことを王家に仕える王宮の人間に知られることは避けたかった。

「王宮の人間ではなく、ブライトウェル公爵家直属の人間を一人付け、アリシア様を護衛させるとともに私へ報告が上がるようにしたいと思います。人選は私が責任を持ち、アリシア様の不利にはならないとお約束します」

なるほど、そういう手もあるのかと感嘆した。

私の懸念を読み切った上での提案に、さすがロイドだと唸らざるをえない。

「また、その護衛はそばに控えるのではなくアリシア様からは見えないところで守らせるように指示しておきましょう。平民のフリをして自由に過ごしたいというのがご希望かと思いますので」

「ロイド……!!」

何から何まで気の利いたロイドの采配に、私は大いに感激して感極まった喜びの声を上げる。

思わずガバッと抱きついてしまいたいくらいだったが、そこは王女として節度ある行動をと理性が働き押し留め、代わりに満面の笑みを彼に向けた。

 ……本当にロイドはすごいわ! 側近として重用されるのも、民から慕われているのも、ご令嬢方がご執心なのも、全部、全部、全部、その通りねって心から同意するわ!

最初の頃こそ面倒な監視役を付けられたとゲンナリしたものだが、今となってはそれがロイドだったことに感謝したいくらいだ。

あまりにも私が無邪気にキラキラとした目で見つめ過ぎたせいか、ロイドは若干居心地が悪そうに、少し視線を逸らしている。

そこで私は唐突にあることを思い出した。

 ……あれ? 思わぬ展開ですっかり私の話ばっかりだったけど、そういえば……?


「ねぇ、ロイド」

「……なんでしょうか?」

「そういえば、今日はいつもの訪問予定日ではなかったわよね? だから私も抜け出していたわけだし。何か急ぎの用事があって来たんじゃないの? その話は大丈夫?」

「…………」

政務に関連する急ぎ事項でもあったに違いないと見当をつけていた私は、少し焦って問いかける。

王宮を抜け出していた事実が判明した以上、ロイドがそのことを追求するのは当たり前だが、もともとの用件も重要であるだろうと思ったのだ。

なのにロイドは言われて思い出したと言わんばかりの態度で、一瞬言葉に詰まっていた。

「……いえ、もう解決しましたので大丈夫です。結構長居してしまったので、そろそろ失礼いたしますね」

特に何もしてないし、話してないのにどうやらいつの間にか用件は解決していたようだ。

不思議に思って首を傾げる私に対し、ロイドはなぜか少しぐったりしている。

「ロイド、疲れているの? あ、そうだわ! もうバレてしまったのだから、これからは王女の姿の時でも疲労回復薬を渡せるわね! そろそろ前に提供した分がなくなる頃でしょう? 半年間見逃してくれるお礼にプレゼントするわね!」

「……それは心強いですね」

立ち上がり、部屋を出て行くロイドを見送りながら、疲労回復薬以外でも何か役に立てそうな薬はないかなと私は考えを巡らせる。

エドワード殿下の側近でありながらも秘密を黙っておいてくれるロイドには感謝してもしきれないのだ。


この日以降、ロイドは私がベールを付けずに会う、この国でただ一人の人物となった。
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