平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「まあ! なんてこと! バッケルン公爵子息はとんでもないクズね。合意も得ずにいきなり口づけをするなんて信じられないわ!」

ギルバート様のことを話した時には、マルグリット様は自分の事のように怒ってくれた。

私の気持ちに寄り添って一緒に怒ってくれることが嬉しい。

それだけで少し気持ちが楽になる気がする。

「シェイラが平手打ちをお見舞いしたのは英断だったと思うわよ。もっと制裁を与えたいくらいだわね! 今のところ向こうからの再度の接触はないのよね?」

「はい。呆気に取られている様子だったので目が覚めたのではと期待しています。それにマルグリット様のお名前を出させてもらいました。……マルグリット様を利用するような形になってすみません」

「全く構わないわよ! 前にも言ったでしょう? こういう時にこそ筆頭公爵家の威光を使って然るべきなのよ」

権力に弱いところがあるギルバート様は、自分の家より格上のマルグリット様の名前を出した時点でもうこれ以上何かしてくることはないだろうと思う。

確信にも近い私の勘だ。

もうあの時の出来事は、事故にでも遭ったと思って忘れてしまうのがいいだろう。

思い出すたびに不愉快になるのだから、考えないようにするしかない。

「それにしても、まさかバッケルン公爵子息からの馬鹿な行いの最中にあの男への恋心を自覚するなんてね。驚いたわ。……まあでも自覚する時って誰しも思わぬ時だったりするわよね。ここだけの話、わたくしがリオネルへの気持ちに気が付いたのは、彼がわたくしに説教をしてきた時だったのよ? フェリクスに巻き込まれてわたくしにまで矛先が飛んできたのだから」

恋心と表現されると、なんだかむず痒い気持ちになる。

それにマルグリット様がリオネル様に向ける気持ちを知っているだけに、あれと同じかと問われれば若干自信がない。

でも確かに私は私なりにフェリクス様を想っているということには今やもう疑いようがなかった。

「あの男にシェイラを盗られるのは癪だけど、あの男の隣に立つのがあなただとわたくしは嬉しいわ」

「いえ、あの、気持ちを自覚しただけで隣に立つなどは……」

「あら? 気持ちを伝えるつもりはないの? あの男は絶対喜ぶと思うけど」

「……まだその勇気は持てません。自分の気持ちを整理できていないんです。フェリクス様は王太子殿下という立場もおありですから、伝えられても困るだけかもしれませんし……」
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