平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
私の言葉を聞いて、途端に圧を強めて顔をずいっと寄せてくるマルグリットに、私は状況をかいつまんで説明する。

この数週間フェリクス様と顔を合わせていないこと、カトリーヌ様が王城に日参してフェリクス様と親しくしているのは事実であることなどだ。

私自身もカトリーヌ様とフェリクス様が二人で応接室へ消えていく場面を目撃したことがあるため、信憑性のないただの噂話ではないことも付け加えた。

「…………」

聞き終わったマルグリット様は何かを思考するように黙り込む。

ちょうどその時先生方が大教室に入って来て、私とマルグリット様のコソコソ話はそこで中断されてしまった。

まもなくして説明会が始まる。

卒業パーティーについての説明を聞きながら、私はついあることが気になって周囲を見回してみた。

あること――カトリーヌ様のことだ。

カトリーヌ様も3年なので、本来ならばこの説明会に出席しているはずだが、今のところ姿を見ていない。

大教室内をぐるりと見回すも、目に入ってくるのは真面目な表情で注意事項に耳を傾ける生徒達のみで、どこにもカトリーヌ様の姿は見つけられなかった。

今日もフェリクス様に会うべくきっと王城に登城しているに違いない。

今頃また応接室に籠り、二人だけで逢瀬を楽しんでいるのだろうか。

フェリクス様は私にしたように、カトリーヌ様の手を握ったり、抱きしめたりしているのかもしれない。

カトリーヌ様もギルバート様に自分から口づけをしていた時のように、フェリクス様にも積極的に迫っていそうだ。

 ……ああ、やっぱりダメ……。

想像しなければいいものを、私はまたしても二人の姿を脳裏に思い描いてしまった。

やきもきする気持ちが胸いっぱいに広がる。

嫉妬というものがこれほど苦しいだなんて知らなかった。

妬みや嫉みの感情が人を破滅に向かわせることがあると以前聞いたことがあるが、今なら「なるほどそうかもしれない」と頷ける。

これは危険な感情だ。

 ……私には何も言う権利も資格もない。なのに自分勝手にもフェリクス様をカトリーヌ様に渡したくないって思っているのだもの。

王太子であるフェリクス様を渡したくないと子爵令嬢ごときが思うなどなんたる不敬だろうか。

日を追うごとに、フェリクス様へ向けた自分の想いが強くなっていることを私は実感せずにはいられなかった。
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