平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

21. 思いがけない来訪者(Sideフェリクス)

「最近シェイラ様とお会いになっていないようですが、よろしいのですか?」

「……ああ、うん。セイゲル語の授業の件も片がついたし、会う理由がなくなったからね」

「理由がなければ作り出すのがいつものフェリクス様では?」

王城内にある王太子用の執務室で、いつものように執務をこなす中、ふいにリオネルが問いかけてきた言葉に僕は苦笑いを浮かべる。

確かにリオネルの指摘する通りだ。

これまでの僕は自ら理由を作り出してシェイラと会う機会を作ってきた。

その様子を側で見ていたリオネルだからこそ疑問に思うのも無理はない。

「ここ最近のフェリクス様は、まるで数年前に戻られたみたいです。楽しげな顔をお見かけすることがなくなりました。退屈そうに日々を過ごしていらっしゃるように見えますね」

なかなか鋭い観察眼だ。

反応に困った僕は「そう?」と軽くはぐらかしながら、書類を捌くペンを動かす。

リオネルは僕がそれ以上何かを話すつもりがないのを察したのか、困ったように小さく溜息を吐くと口を閉ざして目線を書類へと戻した。

 ……本音を言えば僕だってシェイラに会いたいよ。だけどシェイラ本人が泣くほど嫌がっているんだからさすがに僕の気持ちを押し付けるわけにはいかないしね……。

あの日、学園会議の後、僕に抱きしめられたシェイラが大粒の涙を溢した時には本当に驚いた。

その前に王城で打合せをした際もどこか様子がおかしかったからずっと気になっていた。

体調が優れないと本人は口にしていたが、その時の口調がまるで以前に戻ったかのようでドキリとした。

他人行儀で慇懃な態度は、僕から距離を取りたいと物語るようで、せっかくデートを経て心を開いてくれたと思った矢先だったから戸惑った。

だが、学園会議で顔を合わせた時には、そのおかしな様子は鳴りを潜め、いつも通りのシェイラだった。

セイゲル語の授業についての報告も、しっかり準備してあり、シェイラの努力の跡が見えるようで引き込まれた。

イキイキとした表情で皆の前で報告する姿は、本当に魅力的でいつまでも見つめていられそうだった。

そんな会議の後にシェイラと二人で話がしたくて姿を探したわけだが、彼女は僕たちが最初に言葉を交わした場所――あの庭にいた。

この庭に来るのも実に久しぶりだ。
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