平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「それでマルグリットは僕に何の用かな? 何を説明して欲しいの?」

「シェイラのことですわ」

マルグリットが放ったただその一言で僕の意識が一瞬にして切り替わる。

先程まで適当にあしらう気満々だったのに、一転して真剣な目でマルグリットを見つめ返した。

「わたくしは怒っているの。あなたがわたくしのお友達を悲しませるのだもの」

「僕がシェイラを悲しませてる……? 何の話?」

「ストラーテン侯爵令嬢と随分仲良くしているようですわね? あちらこちらで噂になってますわよ」

「……ああ、そのことね。別に仲良くはしてないけど。一方的に纏わりつかれているだけ」

「でもいつものあなたならそういう女は軽くあしらって以後関わり合いにならないでしょう? それなのにストラーテン侯爵令嬢へは随分甘い対応ですこと。王城への日参を許し、噂になるなど脇が甘いのではなくて?」

やや痛いところを突かれ、ぐっと言葉に詰まる。

脇が甘いのは否定できない。

噂になってしまったのは僕にも瑕疵がある。

あまりに煩わしくて投げやりになっていたゆえのことであるのは否めない。

だが、別に対応を甘くしているわけではない。

それはこちらにも言い分がある。

「好き勝手言ってくれるね。こちらにも理由があるんだよ。わざとそうしてるってわけ」

「ワザとですって? 一体どんな理由があるのかぜひお聞かせ願いたいわね。シェイラを悲しませるに値する内容なのかしら?」

「まあマルグリットに知られたところで困らないから教えてあげるよ。端的に言うと様子見だ。どうやらカトリーヌ嬢はシェイラに対して相当歪んだ感情を抱えているようでね。諜報部に探らせたところ、よからぬ者と接触の兆しがあることが分かったんだよ。だから監視しつつ油断させて尻尾を掴もうとしてる」

「つまりシェイラを守るため、だと?」

「そういうこと」

マルグリットは僕の言葉を吟味するように黙り込んでなにやら考えを巡らせている。

どうやらこちらの言い分は伝わったようだ。

だが、逆にこちらからも聞きたいことがある。

「さっきからマルグリットは僕がシェイラを悲しませているって発言してるけど、それどういう意味? ……シェイラに拒絶されて落ち込んでるのは僕の方なんだけど」

「えっ? シェイラに拒絶されたですって?」

「そうだよ。泣くほど僕のことが嫌いみたい」

思わずポロリと泣き言を漏らせば、マルグリットは信じられないと目を見開いた。

そして今度は馬鹿にするような目を向けてくる。
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