平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「あなたがこんなに女心に鈍い頭の弱い方だとは思わなかったわ。無敵王子などと呼ばれているくせに肝心なことには気付かないのですわね」

「……ひどい言いようだね。僕が何に気付いていないって?」

「シェイラの気持ちですわ。なぜ分かりませんの? シェイラはあなたのことを想っているのですわよ!」

「………………え?」

マルグリットの口から放たれた衝撃的な台詞に僕は目を見張る。

驚きすぎて王太子らしからぬあまりにも間抜けな声が漏れてしまった。

そんな僕の様子に構うことなく、勢いづいたマルグリットはさらに言い加える。

「先程わたくしに聞きましたわよね? シェイラがなぜ悲しんでいるのかって。そんなの分かりきったことではございませんこと? 好きな殿方とストラーテン侯爵令嬢が仲睦まじくしているのを噂で聞いたり、実際に目にして、悲しんでいるのですわよ」

「な……。というか今実際に目にしたって言った?」

「ええ。シェイラによるとお二人が応接室へ消えて行くのを目の前で目撃したらしいですわよ。本当に脇の甘いことですこと」

もしかして王城に打合せに来た時のことだろうか。

 ……だからあの日シェイラの様子がおかしかった? 僕とカトリーヌ嬢の姿を見て動揺して……?

本当にシェイラも僕を想ってくれているというのが事実なら嬉しすぎてたまらない。

だが、まだ手放しには喜べない。

「でもシェイラは泣くほど僕が嫌いなんだよ? だからこれ以上シェイラを苦しめないために、あえて距離を置くようにしてるくらいだし……」

「なぜシェイラが泣いたのかはわたくしにも正確には分かりませんわ。でも推測することくらいは可能ですのよ」

「推測?」

「ええ。それこそカトリーヌ嬢との仲を嫉妬して苦しさから涙が出たですとか。あとはあなたに好意を抱いたこと自体に悩んでいる様子でしたから感情が乱れただけかもしれませんわよ?」

「そんな、まさか……」

「そもそもその時シェイラからハッキリ嫌いだと言われたんですの? あなたの勘違いの可能性が濃厚だと思いますわよ」
< 112 / 142 >

この作品をシェア

pagetop