平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

22. 亡き母の想い

 ……ああ、ダメだわ。悶々とする……。

間近に迫った卒業パーティーで着用するドレスが子爵邸に届き、自室で試着を行っている私は沈んだ表情を顔に滲ませていた。

無心でいようとする努力も虚しく、ふとした時に脳裏でフェリクス様とカトリーヌ様の仲睦まじい姿がよぎり、ジリジリと胸を焦がす。

対処に困る自分の感情にすっかり振り回されていた。

「お嬢様、なんですか、その浮かない顔は。せっかく新調した美しいドレスが台無しですよ?」

「……ええ、そうね」

「それにしてもこのドレスは素晴らしい出来ですね。淡いブルーの色合いとふんだんに使われた繊細なレースが柔らかでお嬢様にとてもお似合いだと思います。パートナーが旦那様なのがもったいないですね。きっと卒業パーティー後、今まで以上に多くの縁談が舞い込みますよ」

私にドレスを着付けてくれているエバは、仕立ての良さに感心しきりで、さっきからあらゆる角度でドレスを眺めている。

そんな素敵なドレスが似合うと褒めてもらえるのは嬉しいが、卒業パーティー後の労苦を思うと心穏やかではいられない。

パーティーには父をパートナーに伴い出席するつもりのため、婚約者や恋人がいないことを対外的に示すことになる。

となると、エバの指摘するようにパーティー後に縁談が来るだろうし、本格的に話が進むことになるだろう。

婚約破棄以降はのらりくらりと逃げて来たが、成人を迎えてしまえばそれがもう許されないことは目に見えている。

祖母が本気で張り切り出すに違いない。

想う人がいるのに他の人と結婚しなければいけないのは非常につらい。

かといってその想う人との未来が描けるわけでもなく、どうしようもなかった。

「……私、久々に城下町へお買い物に行きたいわ。ほら、ドレスに合う装飾品があるかもしれないし。試着が終わったら少し出てくるわね?」

「そういうことでしたら私も同行いたしますよ。お嬢様お一人で外を歩かせるわけにはまいりませんので」

気分が晴れず悶々としていた私は、部屋にいても気持ちが塞がるだけだと思い、気分転換をすることにした。

外の空気に触れれば多少は気も紛れるだろう。

エバがついてくるのは想定内だ。

 ……そうだわ。あそこに行ってみようかしら。

私はドレスの試着を終えると、外出用のワンピースに着替え直し、エバとともに東の城下町へ向かった。
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