平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「なぜ私がこの手紙を貴女にお見せしたのか分かりましたか? ……オリミナは確かに嫁入り先の子爵家で大変な苦労をしたのでしょう。ですが、娘である貴女がいたから幸せだったのですよ。愛する存在がいれば様々な困難にも立ち向かえるのですよ。彼女の娘なのですから、貴女もきっと同じなのではないですか?」
目頭を熱くする私に商会長は優しい眼差しを向けて、母の気持ちを代弁するようにそう言った。
苦労ばかりで母は不幸だったのだと長年思い込んでいた私にとっては目が覚めるような驚きだった。
……私も母のように愛する人が側にいれば強くいられるのかしら。困難も乗り越えられるかしら……?
手紙で母の本当の想いを知ったことで、フェリクス様へ気持ちを伝える勇気も覚悟もなかった私に、少しずつ変化が生まれ始める。
このままでは卒業パーティー後に本格的にどこかの家と縁談が進められてしまう。
その前に、勇気を出して想う人に気持ちだけでも伝えるべきではないだろうか。
「手紙を見せてくださりありがとうございました。私は母を少し誤解していたようです。それが分かって本当に良かったと思っています。改めて感謝申し上げます」
商会長に改めてお礼を伝えると、その後私は一度気持ちを整理しようと思い、外の空気を吸うため一人でお店の外に出た。
といってもお店から離れるわけではなく、大通りに面した店先で佇んでいるだけだ。
エバは私と入れ替わりで商会長と昔話に花を咲かせている。
……来た時にはまさかこんな事実を知ることになるとは思わなかったわ。気分転換に城下町へ出て来て本当に良かった。
今の私はマクシム商会へ来た時よりも、随分と心は軽やかになっていた。
晴れ晴れとした気持ちだ。
その時、お店の前の大通りを歩いていた女性が突然その場に蹲ったのが目に入った。
具合が悪いのか手で口元を押さえている。
「大丈夫ですか?」
女性に連れがおらず一人であったため、私は思わず近寄ってハンカチを差し出した。
ハンカチを受け取り、私の手を借りながら、「大丈夫です」と言って立ち上がった女性は、まだ具合が思わしくないのか私の方へフラリとよろける。
その拍子に何かがお腹の辺りに押し当てられる感触がした。
そして突然女性の声色が変わる。
「……シェイラ・アイゼヘルムね。これが何か分かる? ナイフだよ。刺されたくなかったら静かにあたいについてきな。言っておくけど大声を出した瞬間にブスッとやるから」
耳元で囁かれた声はドスのきいた威圧感のあるものだった。
このお腹に当たる感触の正体はナイフらしい。
どうやら私は脅されてるようだと遅ればせながら理解が追いつく。
チラリと周囲に視線を動かすと、周囲の人々は今の事態に全く気付いていない。
女性が絶妙な立ち位置でナイフをあてているせいで、ただ具合の悪い人を介抱しているようにしか見えないのだろう。
……名前を知っているということは最初から狙いは私ということ? 計画的な犯行のようね……。
残念ながら対抗できるような良い策も思い付かず、私は大人しくコクリと頷くしかなかったのだった。
目頭を熱くする私に商会長は優しい眼差しを向けて、母の気持ちを代弁するようにそう言った。
苦労ばかりで母は不幸だったのだと長年思い込んでいた私にとっては目が覚めるような驚きだった。
……私も母のように愛する人が側にいれば強くいられるのかしら。困難も乗り越えられるかしら……?
手紙で母の本当の想いを知ったことで、フェリクス様へ気持ちを伝える勇気も覚悟もなかった私に、少しずつ変化が生まれ始める。
このままでは卒業パーティー後に本格的にどこかの家と縁談が進められてしまう。
その前に、勇気を出して想う人に気持ちだけでも伝えるべきではないだろうか。
「手紙を見せてくださりありがとうございました。私は母を少し誤解していたようです。それが分かって本当に良かったと思っています。改めて感謝申し上げます」
商会長に改めてお礼を伝えると、その後私は一度気持ちを整理しようと思い、外の空気を吸うため一人でお店の外に出た。
といってもお店から離れるわけではなく、大通りに面した店先で佇んでいるだけだ。
エバは私と入れ替わりで商会長と昔話に花を咲かせている。
……来た時にはまさかこんな事実を知ることになるとは思わなかったわ。気分転換に城下町へ出て来て本当に良かった。
今の私はマクシム商会へ来た時よりも、随分と心は軽やかになっていた。
晴れ晴れとした気持ちだ。
その時、お店の前の大通りを歩いていた女性が突然その場に蹲ったのが目に入った。
具合が悪いのか手で口元を押さえている。
「大丈夫ですか?」
女性に連れがおらず一人であったため、私は思わず近寄ってハンカチを差し出した。
ハンカチを受け取り、私の手を借りながら、「大丈夫です」と言って立ち上がった女性は、まだ具合が思わしくないのか私の方へフラリとよろける。
その拍子に何かがお腹の辺りに押し当てられる感触がした。
そして突然女性の声色が変わる。
「……シェイラ・アイゼヘルムね。これが何か分かる? ナイフだよ。刺されたくなかったら静かにあたいについてきな。言っておくけど大声を出した瞬間にブスッとやるから」
耳元で囁かれた声はドスのきいた威圧感のあるものだった。
このお腹に当たる感触の正体はナイフらしい。
どうやら私は脅されてるようだと遅ればせながら理解が追いつく。
チラリと周囲に視線を動かすと、周囲の人々は今の事態に全く気付いていない。
女性が絶妙な立ち位置でナイフをあてているせいで、ただ具合の悪い人を介抱しているようにしか見えないのだろう。
……名前を知っているということは最初から狙いは私ということ? 計画的な犯行のようね……。
残念ながら対抗できるような良い策も思い付かず、私は大人しくコクリと頷くしかなかったのだった。