平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

23. 身に迫る危機

ナイフを突き付けられながら女性に連れて行かれたのは、薄暗い路地にある空き店舗の中だった。

マクシム商会のある大通りに繋がる路地を入り、さらにいくつかの路地を曲がったところにその場所はあった。

大通りからさして離れていないのに、全く様相が違い陰気な空気が流れている。

華やかな城下町の裏の顔といった雰囲気だ。

そんなところにある店舗ももちろん同様の雰囲気で、以前はバーだったようだが、長年使われていないのか壁や床が所々ひび割れていた。

ただ、床に落ちている空瓶は比較的新しく、ここが誰かに使われている様子も窺える。

おそらくアジトかなにかなのだろう。

「しばらくここで大人しくしといて」

女性は店舗内に入ると、ナイフを片付け、続いて私を座らせて両手首を背中の後ろで縛った。

手の動きを封じられて身動きが取りづらく、立ち上がることもできない。

私を縛り終わった女性は、誰かを待っているのかバーカウンターの椅子に座って足をブラブラさせている。

「……あの、私をこんなところへ連れて来て何が目的なの? 身代金目当ての誘拐? それなら私は貴族と言っても下級だから大してお金にならないわよ」

「あれ? 無口なご令嬢って聞いてたけど意外と喋るんだね。この状況で強気じゃん。面白いから特別に教えてあげる。これは身代金目当ての誘拐じゃないよ」

「それじゃあ何が目的なの? 無口な令嬢って聞いていたということは、もしかして誰かからの指示なの?」

「へぇ、なかなか鋭いね。そう、あたい達はあるお方からの依頼をこなしてんだよ。あんたが目障りみたいだね」

「目障りって……もしかして私を殺すつもりなの……?」

「あ、それは心配しないでいいよ。殺しはしない。あたい達は殺しはしない主義なんでね」

少しでも逃げ出す手掛かりを得られればと思い会話を試みたが、なかなか厳しそうだ。

まず「あたい達」と女性は口にしているため、相手は複数名いると見ていい。

これから仲間が来るのだろうし、ますます逃げるのは難易度が高まる。

それに想定外だったのは目的だ。

計画的な身代金目的の誘拐だと推測していたがハズレだった。

私を目障りだと思う誰かからの依頼だというが、殺さないというなら、一体何をされるというのだろうか。

嫌な予感をヒシヒシと感じて背中が冷たくなる。
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