平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
もう少し情報を引き出せないかと思い、再び口を開こうとしたちょうどその時、ギィィっと不気味な音を鳴り響いた。

音の方へ視線を向ければ、入り口の扉から複数人の男女が入ってくるところだった。

決して身なりが良いとは言えない薄汚れた服を着た人相の悪い男が三人、全体的に小綺麗でどこかオドオドした表情をした女が一人だ。

こんなことに関わる人間に知り合いなどいるはずがないのに、なぜかその女の顔には見覚えがある気がした。

どこかで見たかもという程度で、それがどこで、女が誰かは思い出せない。

「おう、待たせな! 上手くやったようだな」

「あたいにかかれば朝飯前だよ。で、そっちの女は?」

「依頼主の代理人さ。依頼主の代わりにオレたちがちゃんと依頼をやり遂げたかを見届けるのが役割なんだと」

「へぇ。それって依頼主さまはあたいらの仕事を信用してないってこと?」

「まぁそう言うな。初めての取引だから仕方ないだろ」

「分かったよ。じゃああたいの役割は連れて来るところまでだから帰る。あとは上手くやりなよ」

残りの仲間がやって来ると、私をここまで連れて来た女とボスっぽい男のやり取りがあり、その後女はサッサとこの場から去って行った。

二人の会話から分かったのは、後から来たもう一人の女が彼らの仲間ではなく依頼主側の人間だということだった。

道理で顔に既視感があるわけだ。

貴族令嬢という雰囲気ではないため、おそらく誰かの使用人ではないかと思う。

 ……誰の使用人かしら。なんとなく見覚えはあるのだけど……?

必死に頭を捻るがなかなか思い出せない。

私が一人無言で考え込んでいる間に、残りの男二人はいつの間にか私のすぐ近くまでやって来ていた。

「ウヒョッ! ボス、見てくださいよ! めちゃくちゃ良い女じゃないっスか! 今回の依頼最高っスね!」

「極上の女だな。こんな女とヤレて金まで貰えるなんて、本当にいいのかボス? めちゃくちゃ滾るぜ」

「待て、お前たち。まずは依頼主の代理人さまに相手に間違いないか確認してもらわなければな。まあ噂通りの美女だから十中八九間違いないだろうが」
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