平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
純潔を奪う依頼を果たすらしいボスが、私の胸元のボタンを外し始める。

一つ、また一つとボタンが外れていき、次第にワンピースの下に身に付けているシュミーズが顕になる。

ゴクリと男の喉が鳴った。

普段メイドにしか見られることのない姿を晒すことになり、私は恥ずかしさと悔しさが入り混じった感情に襲われ目尻に涙が浮かぶ。

露出していく身体を手で隠したいのに、ロープで縛られていてそれすらできないのが憎々しい。

「シミひとつない白くて綺麗な肌だ。さすが貴族の女は平民の女とは違うな。こりゃ楽しみだ」

私の身体を隅から隅まで舐めるように眺める男に身の毛がよだつ。

シュミーズを脱がされてしまうとその下はもう下着だ。

これ以上はなにがなんでも阻止したい私はせめてもの抵抗で身体をよじる。

だが、いとも簡単に肩を掴まれてしまいどうにもできない。

掴まれた時に肌に触れる手が気持ち悪くて鳥肌が立つ。

 ……嫌、嫌、嫌っ……! こんな男に触られたくない! 触れて欲しいのはフェリクス様だけ……!

そう思った途端に脳裏にはもう一ヶ月以上も顔を見ていないフェリクス様の笑顔が思い浮かんだ。

こんな状況なのに、思い浮かべるだけでその存在を身近に感じて励まされ、少し心が穏やかなる。

 ……フェリクス様、助けて……!

届くはずがないのに、つい心の中で助けを求めて呼びかけてしまう始末だ。

それほど私はフェリクス様を心の支えにしていて、頼りにしているのだと危機的状況で思い知った。

ちょうどその時だった。

バンッと乱暴に扉が開く音がして、蹴破るように一人の男性が現れた。

サラリと揺れる金色の髪に、溺れてしまいそうな深い青の瞳をした美形の男性だ。

その整った顔にいつもは浮かんでいるにこやかな笑顔はない。

代わりに火のような怒りの色を顔に漲らせていた。

 ……フェリクス様!!

まるで私の心の叫びが通じたかのような登場だ。

フェリクス様の姿を目にした瞬間、言いようのない安堵が私を包み込む。

まだフェリクス様が一人で現れただけで、相手は四人もいる。

単純に人数だけで見ればフェリクス様が不利な形勢だ。

にも関わらず、「ああ、もう絶対大丈夫だ」となんの根拠もなく無条件にそう思い、強張っていた身体の力を私は一気に抜いたのだった。
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