平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「黙って聞いていたけど、どうやら皆、誤解しているようだね。まあ、仕方がないけど」
「ご、誤解ですか?」
「そう。僕はマルグリットとは結婚しないよ。今パートナーとして一緒にいるのは、ちょっとした理由があるからだけど、こうしてマルグリットをエスコートするのも今日限りだしね」
「マルグリット様とご結婚されない……?」
「ああ、ちなみに結婚自体はするよ? 僕の愛する人とね」
「あ、愛する人……!?」
淡々と答えるフェリクス様に対し、想定外の言葉を耳にした貴族達は一様に戸惑いの顔を浮かべて騒めき出す。
そんな周囲を尻目に、フェリクス様は人集りを割って歩き出した。
その足に迷いはない。
まっすぐとある場所へ向かって歩みを進め、目的地に達すると満面の笑顔を浮かべた。
「シェイラ!」
そう、フェリクス様は人目も気にせず私のいるバルコニーの前までやって来たのだ。
……えっ、うそ……!
もちろん事前に聞かされていたわけでもない私は心臓が止まるかと思うほど驚く。
私を囲んでいた男性達も一様に面食らった顔をして、即座に私から離れて道を開けた。
その開いた道を進んで来たフェリクス様は、私の目の前まで来るとスッと手のひらを差し出してきた。
あまりのことに言葉を失いつつも、私の中ではフェリクス様の手を取らないという選択肢はない。
そっと自身の手を重ねる。
すると、そのままぐいっと引き寄せられ、フェリクス様は周囲に見せつけるかのように私の腰を抱いた。
「皆にも紹介するよ。彼女、アイゼヘルム子爵令嬢のシェイラが僕の愛する人。僕はシェイラ以外とは結婚を考えられないんだ。マルグリットは確かに長年婚約者筆頭ではあったけど、僕たちは良き友人なだけなんだよね」
「ええ、殿下のおっしゃる通りですわ。わたくしも殿下とシェイラの二人を応援しておりますのよ」
フェリクス様の堂々とした宣言に唖然とした人々は、畳み掛けるように加えられたマルグリット様の言葉にさらに騒然となる。
本人達がこう言うのだから二人の結婚はないのだとジワジワと理解が進むと、続いてその視線は一斉に私へと向けられた。
見定めるような視線、やっかむような視線、羨むような視線、降り注ぐ視線……その種類は多種多様だ。
その中でも一際強い視線が私に突き刺さった。
カトリーヌ様の血走った瞳から放たれる憎悪の視線だ。
その鋭い眼差しに射抜かれ、私は怯みそうになる。
だけど、まるで「大丈夫」と言うように腰を抱くフェリクスの腕に力がこもり、私を励ましてくれた。
そしてフェリクス様は未だにどよめく人々に向けて再び口を開く。
「ご、誤解ですか?」
「そう。僕はマルグリットとは結婚しないよ。今パートナーとして一緒にいるのは、ちょっとした理由があるからだけど、こうしてマルグリットをエスコートするのも今日限りだしね」
「マルグリット様とご結婚されない……?」
「ああ、ちなみに結婚自体はするよ? 僕の愛する人とね」
「あ、愛する人……!?」
淡々と答えるフェリクス様に対し、想定外の言葉を耳にした貴族達は一様に戸惑いの顔を浮かべて騒めき出す。
そんな周囲を尻目に、フェリクス様は人集りを割って歩き出した。
その足に迷いはない。
まっすぐとある場所へ向かって歩みを進め、目的地に達すると満面の笑顔を浮かべた。
「シェイラ!」
そう、フェリクス様は人目も気にせず私のいるバルコニーの前までやって来たのだ。
……えっ、うそ……!
もちろん事前に聞かされていたわけでもない私は心臓が止まるかと思うほど驚く。
私を囲んでいた男性達も一様に面食らった顔をして、即座に私から離れて道を開けた。
その開いた道を進んで来たフェリクス様は、私の目の前まで来るとスッと手のひらを差し出してきた。
あまりのことに言葉を失いつつも、私の中ではフェリクス様の手を取らないという選択肢はない。
そっと自身の手を重ねる。
すると、そのままぐいっと引き寄せられ、フェリクス様は周囲に見せつけるかのように私の腰を抱いた。
「皆にも紹介するよ。彼女、アイゼヘルム子爵令嬢のシェイラが僕の愛する人。僕はシェイラ以外とは結婚を考えられないんだ。マルグリットは確かに長年婚約者筆頭ではあったけど、僕たちは良き友人なだけなんだよね」
「ええ、殿下のおっしゃる通りですわ。わたくしも殿下とシェイラの二人を応援しておりますのよ」
フェリクス様の堂々とした宣言に唖然とした人々は、畳み掛けるように加えられたマルグリット様の言葉にさらに騒然となる。
本人達がこう言うのだから二人の結婚はないのだとジワジワと理解が進むと、続いてその視線は一斉に私へと向けられた。
見定めるような視線、やっかむような視線、羨むような視線、降り注ぐ視線……その種類は多種多様だ。
その中でも一際強い視線が私に突き刺さった。
カトリーヌ様の血走った瞳から放たれる憎悪の視線だ。
その鋭い眼差しに射抜かれ、私は怯みそうになる。
だけど、まるで「大丈夫」と言うように腰を抱くフェリクスの腕に力がこもり、私を励ましてくれた。
そしてフェリクス様は未だにどよめく人々に向けて再び口を開く。