平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
漏れ聞こえてくる中で最も顕著だったのが、今後の身の振り方について思い悩む声だ。
これまでフェリクス様とマルグリット様が結婚するものと想定して二人に近しい者に取り行ってきた者は予定の狂いに嘆き、カトリーヌ嬢のことで落ち目確実のストラーテン侯爵家と所縁の深い者は自身への影響に戦々恐々としていた。
そしてそんな皆が共通して抱いていた想い、それは王太子殿下であるフェリクス様への畏怖の念だった。
いつも感じの良い優しげな笑顔を浮かべる温和な王太子殿下が、隠しきれない殺気を漂わせ、侯爵令嬢をバッサリ切り捨てる姿に慄いていたのだ。
……皆の気持ちが分かるわ。普段にこやかな人ほど怒らせると怖いわよね。
当事者の一人である私もこの展開には驚きを隠せない。
フェリクス様は「あとは任せておいて」と言っていたが、まさかこのような結末を迎えるとは。
でも私は決してそれを否定するつもりはないし、ましてやカトリーヌ様に同情もしない。
カトリーヌ様はそれだけのことをしでかしたのだから。
気に食わない相手である私と直接対話で決着を付けることも可能だったかもしれないのに、彼女は一線を超えたのだ。
「さて、騒がしくして悪いんだけど、実はもう一つだけ皆に報告しておきたいことがあるんだ」
騒めきが収まらない中、またしてもフェリクス様が口を開く。
今度は何だと皆が一斉にフェリクス様に注目し、迫り来る衝撃発言に耐える姿勢をとった。
そんな貴族達の様子にフェリクス様は可笑しそうに薄く笑う。
「ふふ、そんなに身構える話ではないよ。実は、生徒からの要望を受けて来期から王立学園でセイゲル語の授業を開講することになったんだ」
「確かに最近は彼の国との外交の重要性は増していますからな」
「今後を見据えた素晴らしいご判断かと」
「優秀な人材の輩出は国のためになりますからね」
どんな爆弾が落ちてくるのかと身を強張らせていた貴族達は、至って真っ当な内容にホッと胸を撫で下ろしたようだ。
そして次々に賛同を示す言葉が挙がり始めた。
「皆に喜んでもらえて良かったよ。授業の開講に向けては夏前頃から準備を進めていたんだけど、それに多大なる協力をしてくれたのが他ならぬシェイラなんだ」
そう言ってフェリクス様は愛しそうに目を細めて隣に佇む私へ視線を向ける。
一聴衆の気分で話に耳を傾けていた私は、突然名前を出されて皆の注目を浴びビクリとした。
だけどフェリクス様は私に話を振るつもりはなかったようで、再び貴族達の方へ顔を向けると、王族らしい威厳で告げる。
これまでフェリクス様とマルグリット様が結婚するものと想定して二人に近しい者に取り行ってきた者は予定の狂いに嘆き、カトリーヌ嬢のことで落ち目確実のストラーテン侯爵家と所縁の深い者は自身への影響に戦々恐々としていた。
そしてそんな皆が共通して抱いていた想い、それは王太子殿下であるフェリクス様への畏怖の念だった。
いつも感じの良い優しげな笑顔を浮かべる温和な王太子殿下が、隠しきれない殺気を漂わせ、侯爵令嬢をバッサリ切り捨てる姿に慄いていたのだ。
……皆の気持ちが分かるわ。普段にこやかな人ほど怒らせると怖いわよね。
当事者の一人である私もこの展開には驚きを隠せない。
フェリクス様は「あとは任せておいて」と言っていたが、まさかこのような結末を迎えるとは。
でも私は決してそれを否定するつもりはないし、ましてやカトリーヌ様に同情もしない。
カトリーヌ様はそれだけのことをしでかしたのだから。
気に食わない相手である私と直接対話で決着を付けることも可能だったかもしれないのに、彼女は一線を超えたのだ。
「さて、騒がしくして悪いんだけど、実はもう一つだけ皆に報告しておきたいことがあるんだ」
騒めきが収まらない中、またしてもフェリクス様が口を開く。
今度は何だと皆が一斉にフェリクス様に注目し、迫り来る衝撃発言に耐える姿勢をとった。
そんな貴族達の様子にフェリクス様は可笑しそうに薄く笑う。
「ふふ、そんなに身構える話ではないよ。実は、生徒からの要望を受けて来期から王立学園でセイゲル語の授業を開講することになったんだ」
「確かに最近は彼の国との外交の重要性は増していますからな」
「今後を見据えた素晴らしいご判断かと」
「優秀な人材の輩出は国のためになりますからね」
どんな爆弾が落ちてくるのかと身を強張らせていた貴族達は、至って真っ当な内容にホッと胸を撫で下ろしたようだ。
そして次々に賛同を示す言葉が挙がり始めた。
「皆に喜んでもらえて良かったよ。授業の開講に向けては夏前頃から準備を進めていたんだけど、それに多大なる協力をしてくれたのが他ならぬシェイラなんだ」
そう言ってフェリクス様は愛しそうに目を細めて隣に佇む私へ視線を向ける。
一聴衆の気分で話に耳を傾けていた私は、突然名前を出されて皆の注目を浴びビクリとした。
だけどフェリクス様は私に話を振るつもりはなかったようで、再び貴族達の方へ顔を向けると、王族らしい威厳で告げる。