平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
しかも何やらそれには思惑がありそうで、最後にごく小さな声で呟いた一言を私は聞き逃さなかった。

どうやらリオネル様が絡んでるようだ。

フェリクス様に嗜められていたことから、もしかすると二人の間であらかじめ何かしらの密約があるのかもしれない。

それがどんな内容なのか気になるところだが、今はそれどころではない。

マルグリット様の後押しもあって、あれよあれよと言う間に、私たちの結婚が認められ、しかもすぐに結婚せよとのお達しまで出てしまったのだ。

 ……うそでしょう!? 間違った事実のもと話がそのまま進んでしまっているわ……!

私は慌てて訂正しようと身を乗り出すも、それを他ならぬフェリクス様に制止させられてしまった。

一体何を考えているのかと目で問えば、フェリクス様は私の耳元でそっと囁く。

「大丈夫。事実にしてしまえばいいんだから。僕に任せておいて。自信はあるから」

そしてフェリクス様はにこりと意味ありげな微笑みを私に向けたのだった。

ああ、やっぱりフェリクス様の「僕に任せておいて」はとんでもない展開をもたらすのだなぁとしみじみ思い私は遠い目になってしまう。

どうやらフェリクス様と一緒にいる限り私の未来は、平穏とは程遠い生活になりそうだ。

でもそれも悪くないかなと思っている自分がいる。

もちろん今でも平穏は望んではいるけれど、今の私はフェリクス様と共にあることがそれ以上にかけがえのない大切なことだと感じているのだ。

亡き母のように私も逞しく生きよう。

愛する人が側にいてくれるなら、きっとどんな苦労や困難も乗り越えていけるから。

そう心に誓った私を待ち受ける最初の試練。

それは、愛する人が一刻も早く結婚したいと願って吐いた「嘘」を「真実」へ導くという、とんでもなく珍妙かつ難易度の高いものなのであった。


〜END〜
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