平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
彼女のことが知りたいのに、壁を作られている感じだ。

「あの、セイゲル共和国は商業国家として有名ですが、やはり珍しいものが多いのですか? 留学されていかがでしたか?」

しょうがないと諦めつつ、セイゲル後について会話を広げれば、今度は珍しく彼女の方から僕へ質問を投げかけてきた。

珍しく、というより、実質初めてではないだろうか。

心が喜びで波打った僕は、留学で見聞きしたセイゲル共和国について語って聞かせた。

すると、なんと彼女がごく自然に微笑んだのだ。

澄んだ水色の瞳が細められ、ふっくらとした唇の口角が上がる。

もともと美しい容貌をした彼女だが、笑った顔はハッと息を呑むほど綺麗だ。

 ……可愛い。彼女の笑った顔をもっと見てみたい。

この瞬間、自分の中で彼女の位置付けが変わったのを感じだ。

面白くて興味がある構いたい対象から、異性として好意がある振り向かせたい対象へ。

食事の後、彼女からは「教室に来ないで欲しい」とお願いをされたが、それに了承しつつ、僕は考える。

それなら今度はどうやって彼女と会う機会を作ろうかと。

明確に彼女への好意を自覚した今、僕と距離を置きたいと望む彼女の意向に従うつもりはハッキリ言ってない。

 ……さて、シェイラとどのようにして距離を縮めようかな。

自分を嫌う相手を振り向かせたいなんて初めてのことだ。

いや、違う。

そもそもこんなふうに一人の女性に興味を持ち、好意を持つこと自体が初めてだ。

これまでの人生、望まずとも女性に囲まれて、勝手にチヤホヤされてきたゆえに、感じ良くあしらうことにしか意識を向けてこなかった。

今から思えば、そんな僕が二年前にあの庭でシェイラに興味を持った時点ですでに異性として彼女に惹かれていたのだろう。


「参考までに聞きたいんだけど、リオネルは好意のある令嬢にはどうやってアプローチしてる?」

「ぶふっ。いきなり何ですか……!」

自分の経験は役に立たなさそうだと悟った僕は、近くにいたリオネルに試しに問いかけてみた。

真面目が服を着て歩いているようなリオネルには唐突な質問だったらしく、激しく動揺させてしまったようだ。

「いやね、どうやら僕、シェイラのことを異性として好意を持ったみたいでさ。初めての経験だから、人から助言をもらおうかなと思って」

「それが私ですか。人選をお間違えですよ。でもまぁ、アプローチといえば贈り物などが一般的なのではありませんか?」

「なるほど。贈り物か」

意外とまともな答えが返ってきて、僕は軽く驚く。

リオネルには婚約者もいなければ、これまで浮いた噂一つなかったからだ。

それにシェイラのことを異性として好きだと打ち明けたのに、リオネルからはそれに対する反応がなく不思議に思う。
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