平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「シェイラに好意を持ったと言った部分については何も言わないの?」

「正直なところ、ようやく自覚なさったのですねとは思ってますよ。フェリクス様の言動を拝見していると明らかでしたので」

「え、そう? そんなに分かりやすかった?」

「はい。特に私は普段のフェリクス様をよく知っていますからね。能力が高いゆえになんでも簡単にできてしまわれるフェリクス様は、めったに特定の物事へ興味を持たれませんから。まぁ、その分一度琴線に触れた事柄にはこだわられますけど」

どうやらリオネルにはかなり正確に僕という人間を把握されてしまっているらしい。

さすが腹心の側近だ。

「さすがリオネル。僕以上に僕を分かってるね。じゃあ今、次に僕がしようと思ってることも察してたりする?」

「ええ。……マクシム男爵をお呼びになりたいのではありませんか?」

「正解! すごいね」

まさかズバリ当てられるとは驚いた。

さっそくと言わんばかりにそのままリオネルはマクシム男爵との面会の手配に動いてくれる。

おかげてそれから数日後、王城の王太子専用の応接室で僕はマクシム男爵と顔を合わせていた。

◇◇◇

「フェリクス殿下、お久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」

眼鏡をかけた知的で落ち着いた壮年の男が、目の前で僕に恭しく一礼する。

彼に席を勧め、僕たちはソファーに向かい合わせで腰掛けた。

「マクシム男爵も元気そうで良かった。商売も順調そのものだと耳にしてるよ」

「はい、おかげさまで好調です」

彼――マクシム男爵は、エーデワルド王国随一のマクシム商会を率いるやり手の商会長だ。

もともとは平民の富豪だったのだが、近年商会の成長が著しく今や不動の存在となっており、その功績を持って男爵へ叙爵となった。


「本日はセイゲル共和国の珍しい品をご所望ということでお持ちしました。こちらでございます」

マクシム男爵はテーブルの上に持参した商品を丁寧な手つきで並べていく。

そう、これらこそがマクシム商会が飛躍した理由だ。

彼は数年前にセイゲル共和国からの仕入れルートを確立し、エーデワルド王国内で「セイゲルの品物を買うならマクシム商会」という地位を築き販路を独占しているのだった。

ちなみに僕はセイゲル共和国への留学中にマクシム男爵と現地で顔見知りになり、こうして今も直接会うくらいには親しくしている。

「贈り物とのことでしたので、ガラス細工を中心に見繕いました。こちら右側からグラス、花瓶、キャンドルホルダー、サンキャッチャーです。どれもなかなか手に入りにくい珍しい品々となっております」
< 34 / 142 >

この作品をシェア

pagetop