平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
マクシム男爵の紹介に合わせて、それぞれの物に順番に視線を向ける。

その中で最後のサンキャッチャーに対して直感的にコレだと感じた。

「このサンキャッチャーを購入するよ。僕が留学していた時には目にしたことがない品だけど、ここ最近の新商品?」

「おっしゃる通りです。近頃発売されたばかりのものでして、あちらの国で貴族令嬢に人気となっています。特にこれからの夏の季節に最適です。窓辺に吊るせば太陽光を受けて美しく輝きますから目を楽しませてくれます」

「なるほど。確かに季節的にもぴったりだね。それにしてもセイゲル共和国は次々に新しいものを生み出してるなぁ」

「フェリクス殿下が留学されていたのは2〜3年前ですからね。それ以降行かれておられないと存じますが、訪問のご予定はないのですか?」

「視察に行きたいとは思ってるんだけど、残念ながらなかなか都合がつかなくてね」

マクシム男爵のようにそう頻繁に外国へ足を運べない身のため、彼を羨ましく思う。

また何か面白い話があれば教えて欲しい旨を伝え、本日の目的を果たした僕はマクシム男爵との面会を終えた。

この手に入れたサンキャッチャーをどうするかといえば、もちろんシェイラに贈るつもりだ。

なにしろシェイラはこの前の会話の際、唯一セイゲル共和国の珍しい品について反応し、興味を持っていた様子だったからだ。

 ……物で釣るのはいささか不本意だけど。嫌われている立場だから手段は問えないしね。また笑顔を見せてくれたら嬉しいんだけどな。

そう期待しながら、次にシェイラに会う算段をつける。

僕が教室へ行かないという約束があるため、代わりにリオネルに呼びに行かせた。

するとリオネルに連れられて王族専用の部屋へやって来たシェイラは、その美しい顔に隠しきれない不満を滲ませていた。

珍しくやや感情的で、丁寧な口調を維持しながらもチクチクと抗議を入れてくる。

文句を言われているというのに、それすら嬉しくて自然と唇の端が上がってしまう。

いつもの画一点の態度とは異なり、感情を発露させているシェイラの姿を見ることができたからだ。

贈り物に対しては不思議そうな顔をしただけで思ったほど喜んではくれなかったが、それも問題ない。

色んな表情のシェイラを目にでき、僕は満足していたのだから。

シェイラと関わるようになって本当に日々が楽しくてしょうがない。

だから僕はすっかり忘れていた。

この学園には僕にとって厄介な存在がいることを――。
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