平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「よく来てくださったわね。どうぞこちらにお掛けになって?」

艶のある声が私に掛けられ、それに応じて言われるがままに私はソファーに腰を下ろす。

テーブル越しに向かい合うと、上級貴族らしく悠然と構えたマルグリット様は私を見て柔らかく微笑んだ。

 ……うわぁ、素敵……!

思わず目を奪われ、同性なのに不思議と胸がドキドキしてくる。

それくらい一瞬で相手を引きつける雰囲気のある方なのだ。

「突然お呼び立てしてごめんなさいね。でもあなたとはどうしても一度直接お話させてもらいたかったの」

「いえ、大丈夫です……!」

「それなら良かったわ。せっかくのお茶会ですもの、お菓子も色々なものを取り寄せたのよ。お口に合うと良いのだけれど。遠慮なさらずに召し上がってね」

マルグリット様がそう話す間に先程案内してくれた女性が香り高い紅茶をティーカップに注いでくれる。

どうやらこの女性はマルグリット様のメイドのようだ。

「ありがとう、もういいわ。ここからはシェイラ嬢と二人きりでお話したいから席を外してくれるかしら」

紅茶を淹れ終わったタイミングで、マルグリット様はメイドに退室の指示を出す。

それを受け、メイドは私たちへ一礼すると生徒会長室から出て行ってしまった。

これでこの場にはマルグリット様と私、二人だけだ。

 ……いよいよ本題というわけね。

私は思わずゴクリと生唾を飲む。

クラスの令嬢達からは色々と言われ慣れているが、マルグリット様はその令嬢達とは明らかに一線を画す存在だ。

そんな方からの一言はやはりどうしても身構えてしまう。

「お察しかもしれないけれど、今日はね、先日あなたのクラスへあなたを訪ねて来た人のことでお話をしたいと思ってお呼びしたの」

その一言を耳にして「やはり」という感想を抱く。

次に続く言葉はきっと「フェリクス殿下とはどういう関係なのかしら?」に違いない。

私は誤解を解くために予め整理しておいた説明を頭の中に思い浮かべながら、マルグリット様からの次の言葉を待った。

だが、ここで予想外のことが起きる。
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