平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「リオネルとはどういう関係なのかしら?」

なんとマルグリット様が実際に口にした言葉は私の思っていたものと全く違っていたのだ。

 ……え? リオネル様?

今のは聞き間違いだろうかと一瞬自分の耳を疑う。

「……あの、今、リオネル様とおっしゃいました?」

「ええ、そうよ」

念のため確認してみてたが、リオネル様で合っていると即座に肯定されてしまった。

 ……一体どういうこと!?

思いもよらない展開に私は頭の中が真っ白になり、軽く混乱してしまう。

「えっと、あの、マルグリット様のお話というのはフェリクス殿下のことではないのですか……?」

「フェリクス? あんな男のことはどうでもいいのよ。それよりわたくしはリオネルとあなたの関係を伺いたいわ。なぜリオネルがあなたを訪ねたのかしら? そのあたりを詳しくお聞かせいただける?」

実質の婚約者なのだからフェリクス殿下のことが気になるのではないかと思って尋ねれば、マルグリット様は鼻で笑い、フェリクス殿下のことは歯牙にも掛けない様子だ。

むしろ先程までの悠然さはどこへやら、捲し立てるように立て続けに疑問を投げかけてくる。

 ……べ、別人みたいなんですが……!

「早くお答えになって」と言わんばかりに身を乗り出してくるマルグリット様に呆気に取られ気圧されつつ、私はとりあえずこれまでの経緯を包み隠さず素直にすべて白状した。

最後まで口を挟まず聞いていたマルグリット様は、話を聞き終えると、胸のつかえが取れたようにほぉと安堵のため息を漏らす。

「つまり、リオネルはただフェリクスに振り回されているだけなのね。あなたを訪ねたのもただの代理だった、と。なぁんだ、心配して損しちゃったわ」

こちらが本来の姿なのか、最初の印象と違ってマルグリット様はとても開けっぴろげな性格のようだ。

心配ごとが解消されたことも手伝って、かなり砕けた口調になっている。

「あなたも災難ね。フェリクスなんかに興味を持たれちゃって。あの男、本当に胡散臭いものね。無敵王子とか言われてチヤホヤされているけれど、みんな騙されているわよ」

実質の婚約者であるはずのフェリクス殿下に対しても信じられないくらい辛辣な評価を口にする。

 ……でも初めてこの状況を災難だって誰かに分かってもらえたわ……! それにマルグリット様のおっしゃる通りよ。確かにフェリクス殿下は顔良し、頭良し、性格良しってすべてが完璧って言われているけれど、性格は少々問題ありよね? 笑いながらなんでも軽くあしらうんだもの……!

思いがけず共感して、私はマルグリット様の言葉に黙ってウンウンと首を縦に振った。
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