平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
キャシーによると、マルグリット様のこの秘めた恋心を知っているのはごく限られた人のみだそうだ。

ちなみにリオネル様ご本人は全く気付いていないらしい。

こんな分かりやすいのに?と思ったが、リオネル様を前にした時のマルグリット様は、上級貴族として鍛え上げられた感情制御の技術が遺憾無く発揮されてしまうという。

 ……こんなお綺麗かつお可愛らしい姿を目にしたらリオネル様だってイチコロになるに違いないわ。心まで気高く美しい方なのだから。

「そうそう。分かっているとは思うけど、会議にはもちろんあの男も来るわよ?」

「……フェリクス殿下、ですよね?」

「ええ。あの男はあれでも学園の管理者を王族として担当しているのですもの」

リオネル様が来るということは、当然だがその(あるじ)であるフェリクス殿下も参上することは分かっていた。

それでいて気にしないように目を逸らしていた私である。

 ……これを現実逃避というのかしら。

マルグリット様のお友達になり、生徒会へ引き摺り込まれてからというものの、実は私の毎日はあらゆる意味で平穏が訪れている。

まず以前のようなフェリクス殿下からの接触が止まった。

余程マルグリット様が苦手で避けているのか、はたまたただ忙しいだけなのか、もしくは私にもう興味をなくしてくれたのか、その理由は不明だが。

どういう理由であれ、避けたい人が近寄って来ないというのは非常に助かる。

さらに、マルグリット様と親交を得たことで、なんとクラスでの陰口も収まるという変化が起こった。

学園で一番身分の高い公爵令嬢かつ生徒会長を味方につけた私に表立って悪口を言いづらくなったようだ。

マルグリット様とお友達になったのは、特にこれを意図したものではなかったため、嬉しい誤算だった。

「会議の後にきっとあの男はシェイラに近付いてくるでしょうけど、安心していいわよ。わたくしが同席してあげるわ」

「マルグリット様……!!」

 ……なんて心強い味方! いくら好意を向けられようとも二人きりにならなければ安心だものね。

懸念が解消されて私はホッと息を吐き出す。

フェリクス殿下、マルグリット様、どちらも遥か上の身分の方々だが、両者に対する私の心証は全くの真逆となっていた。


◇◇◇

「それでは会議を始めます。本日の議題は、来期の生徒会選挙の概要報告および生徒から上がっている陳述の検討となります。皆様、よろしくお願いいたします」

迎えた会議の日。

私はマルグリット様や生徒会メンバーとともに、学園長室に隣接する会議室にいた。
< 43 / 142 >

この作品をシェア

pagetop