平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「あら、殿下。今日可決されたばかりの案件について話し合いだなんた性急ではございませんこと? シェイラだって少しは自身の考えをまとめる時間が必要ですわ」

「善は急げと言うじゃないか。何かを始めようと思ったら、すぐに行動する方が良いと思うんだよね。僕もそう頻繁には学園に来れないし、貴重な機会は無駄にはしたくないから。多忙な生徒会長なら僕の気持ちも分かるだろう?」

「まあ、立派なお心掛けですこと! さすがは殿下ですわね。でしたら、わたくしもその話し合いに同席させて頂きますわ。構いませんわよね?」

フェリクス殿下の言葉を皮切りに、マルグリット様がそれに応酬する形で二人の舌戦がたちまち始まる。

丁寧な言葉遣いと穏やかな笑顔で言葉が交わされているゆえに、一見非常に和やかな会話に聞こえるから不思議だ。

その実体は双方嫌味と皮肉を織り交ぜた、火花が散るような苛烈な言い合いである。

ここに割って入る勇気も気概も全くない私は、黙って成り行きを見守るのみだ。

 ……相変わらずすごい応酬だわ。でもこの話の流れなら、マルグリット様も同席になりそうね。良かった……!

早々にほっと安堵に胸を撫で下ろした私だったが、次の瞬間、その流れが一変する。

フェリクス殿下が一旦口をつぐみ、チラリと背後に控える自身の側近を一瞥(いちべつ)した後に、マルグリット様に向かってにフッと笑ったのだ。

「できればマルグリットには別件の話し合いをお願いしたいんだけどな。……リオネルがマルグリットに聞きたいことがあるそうだよ?」

「リ、リオネルが私に……?」

「そう。現役の生徒会長であり、公爵令嬢でもあるマルグリットが最適なんだってさ。ね、リオネル?」

あ、これは良くない流れかも……と私は瞬時に察する。

マルグリット様に先程までの勢いはなくなり、今やフェリクス殿下を通り越してその後ろにいるリオネル様に意識が完全に向いていた。

「はい。お忙しい中恐縮ですが、差し支えなければぜひマルグリット様のお話をお伺いしたく……」

「そういうことなら喜んで。わたくしで役に立てるのなら何でも聞いてちょうだい」

「では別室を押さえておりますので、そちらへ」

「ええ、分かったわ!」

リオネル様が直接言葉を発したことで、マルグリット様は陥落。

嬉々として、リオネル様の言葉に釣られて、生徒会長室を出て行ってしまったのだ。

もちろん専属メイドであるキャシーも伴って。

これによりその場に残されたのは、にこやかな笑顔のフェリクス殿下と困惑顔の私の二人だけとなってしまった。
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