平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「さて、ようやく厄介者がいなくなったね」

マルグリット様がいなくなると、上機嫌なフェリクス殿下は先程まで部屋の主が座っていたソファーに腰掛けた。

向かい合う形になり、視線を向けられる。

非常に居心地が悪い。

「これからシェイラと定期的に会えると思うと嬉しいなぁ。この学園のより良い未来のために、協力よろしくね」

「……私でお役に立てるのでしたら光栄です」

“学園の未来”という立派な建前を持ち出されれば、私もこう答えざるを得ない。

本音は気が重くてたまらないが、にこりと笑顔を作るだけの分別くらいはある。

 ……はぁ。これからどうしようかしら。

ただ、今後のことを思い描くと苦悩は止められない。

関わらなくてはいけなくなってしまった以上、どうしたらフェリクス殿下の興味や好意を私から逸らせるかが近々の課題だ。

表面上は平然を装いながらフェリクス殿下と言葉を交わしつつも、私は必死に考えを巡らせる。

でもいくら熟思しても、残念ながらこれと言って良い解決策は思い浮かばない。

私の足りない頭では無理かと諦めようとしたまさにその時、天啓のようにふとある言葉が頭に舞い降りて来た。


――「あの男はあれでも王太子だし、見目も良いから、有象無象の女性が集まっちゃうのよね。そんな女性達から色仕掛けされたり、女の武器を全面に出して迫られるのが嫌だってよく嘆いているもの。その点、あなたってそうじゃないでしょう? だから興味を持たれたのよ」


初めて話した時に、マルグリット様が言っていた台詞だ。

 ……これだわ! そうよ、フェリクス殿下の嫌う女になればいいんだわ!

それはものすごく名案に思えた。

考えてみればギルバート様の時もそうだった。

彼に中身のないつまらない女だと思われるために、無口で触れ合いを避ける女を演じたのだ。

結果的にそれは大成功で、ギルバート様はカトリーヌ様に心変わりし、無事に婚約破棄を成し得たのだから。

 ……今回は明確にフェリクス殿下の嫌いなタイプも分かっているのだから、きっとギルバート様の時よりも成功率は高いはずよ! 身分の高い男性と関わって平穏な生活を脅かされるのを断固阻止するためにやるしかないわね……!

希望を見つけ出し、目の前が開けた心地だ。

先程までの憂鬱が嘘のように消え去り、気分が軽くなるのを感じながら、私はさっそくこの策を実行に移すことにした。
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