平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
今度はどうだろうかとそろりとエバの様子を窺う。

エバは私の言葉を吟味するようにしばし沈黙すると、苦言を呈す時のような苦い顔をした。

「話は分かりました。ただ、あんまり色仕掛けはおすすめしませんけどね。そのご友人を諌めて差し上げた方が良いのではありませんか?」

「そうね、そうかもしれないわ。ただね、友人の意思は固いみたいなのよ。どうしても色仕掛けが必要なんですって。だから私もできる限りの情報を仕入れようと思ったのよ。エバは人生経験も豊富できっと色々知ってるでしょう? 何か教えてくれないかしら?」

断られそうな雰囲気を感じ取り、私は必死にエバの心を動かすべく言葉を重ねる。

その甲斐あってか、エバはやや呆れた表情をしながらも、いくつか具体的な策を授けてくれた。

これはさっそく役に立ちそうだと私はホクホク顔だ。

「――と、こんな感じですかね。ただし、繰り返しますが、やはり色仕掛けはあまりおすすめしませんよ。くれぐれも色仕掛けだけに頼らないようにとお嬢様からご友人にお伝えになった方がよろしいですよ」

「ええ、分かったわ。肝に銘じておくわね。ありがとう」

「言うに及ばずかと思いますけど、今の話を聞いてお嬢様がお試しになるのもお控えくださいね。お嬢様の場合、何もしなくとも異性を惹きつける美貌をお持ちなのですし、色仕掛けなどしたら面倒なことを引き起こすに違いありませんから。お分かりですね?」

「え、ええ。もちろんよ。私は関係ないわ」

 ……ごめんなさい、エバ。思いっきり私が実行する予定です……。

最後に釘を刺すように向けられた忠告に、私は表面上は笑顔で頷きながは、心の中で謝罪する。

決して悪用するわけではない。

異性を惹きつけるのではなく、嫌われるために実行するのだ。

すべては亡き母の教えである、身の丈に合った平穏を勝ち取るためだと私は自身に言い聞かせた。


◇◇◇

それから数週間後、さっそくエバの教えを実行に移す舞台がやって来た。

なんとその舞台は王城だ。

フェリクス様から打合せがしたいからと王城への招待状を受けたのだ。

政務が忙しいらしくなかなか学園に足を運ぶ暇がないらしい。

そういうことならば下級貴族である私が伺うのが道理というものだろうと素直に応じることにした。
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