平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
王城の門番で招待状を提示すると、衛兵によってすぐに王太子専用の応接室へと案内された。

学園にある王族専用の部屋とは比較にならないほど広々とした空間だ。

フェリクス様の趣味なのかは分からないが、内装や家具、調度品はすべて白や黒、茶色などの色味で統一されており、全体的に落ち着きのある部屋だった。

衛兵が立ち去ると、入れ替わりで今度は執事がやって来て手早くティーセットを準備して私に紅茶を淹れてくれる。

柑橘系の香りがふわりと広がり、その香り立ちの良さだけで上質な茶葉が使われていることがありありと分かった。

さすが王城で提供される紅茶だと妙に感心してしまう。

飲み物をサーブし終えると、「しばらくこちらでお待ちください」と言い残して執事もその場に私を残して去って行った。

何十人も入れそうな部屋に一人ポツリと取り残された私は、紅茶に口をつけつつ、エバの教えを頭の中で復習する。

 ……今日こそはフェリクス様の嫌いな女を体現してみせるわ!

並々ならぬやる気を漲らせていると、ちょうどそのタイミングでフェリクス様が執事を伴い応接室に現れた。

「シェイラ、今日は王城まで足を運んでくれてありがとう。こちらから呼び出しておいて、待たせてごめんね。……ニーズ、あとは自分でやるからそのままティーセットは置いておいてくれる? 用事があれば声を掛けるよ」

まっすぐに私の方へ足を向けたフェリクス様は、向かい側の席へ腰掛け、私と視線を合わせる。

一緒にやって来た執事がフェリクス様分の紅茶を淹れ終えるのを見届けると、軽やかな口調で退室を促した。

バタンと扉が閉まり、前回同様、たちまちフェリクス様と私の二人きりという状態が訪れる。

「さて、今日はシェイラがセイゲル語を習得した時の学習プロセスを教えて欲しいんだけど、思い出して来てくれた?」

「はい。私の場合は、まずは基本的な単語を覚えて、次に簡単なセイゲル語の物語を声に出しながら読むようにしました。次第に語彙が増え、セイゲル語の文章にも口が慣れてくるので、自分の言いたいことをつぶやいて練習しました」

「なるほど。僕も似たような感じだったなぁ。であれば、その順番と内容で授業を進めるのが良さそうだね。声に出すという点を必ず授業で徹底してもらおう」
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