平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
色仕掛けを早々に実行したいところではあるが、本題の協力依頼を疎かにすることは憚られる。

そのため、まずは真面目に今日の打合せ事項について意見を交わした。
 
フェリクス様はやはり察しがいいというか、飲み込みが早いというか、私の話したことを受けて、すんなりと結論を纏めていく。

 ……やっぱり有能な方だわ。会話がとても円滑に進むし、話していて気疲れしないのよね。

これで私に関心を向けずにいてくれたら、我が国の将来を担う優秀な王太子様として純粋に尊敬を向けられるのに……と残念でならない。

「――という点も留意が必要だろうね。まあ、こんなところかな。他に何かシェイラの意見はある?」

「いえ、追加することはありません。大丈夫です」

トントン拍子で打合せは進行し、私たちは一通りのことを話し終えた。

フェリクス様は喉を潤すためにティーカップに手を伸ばし、すでに冷めぎみになっていた紅茶に口をつける。

 ……本題もひと段落した今がチャンスだわ!

機を逃してなるものかと私はさっそく作戦を実行に移すことにした。

ソファーから立ち上がり、向かい側に座るフェリクス様の隣へ滑り込む。

物理的に身体的な距離を詰め、真横からフェリクス様を見つめてにこりと微笑んだ。

「お隣を失礼いたします。向かい合わせだと、フェリクス様との距離が遠くて寂しく思っていたのです。ここですと、フェリクス様のお顔も間近で拝見できて嬉しいですわ」

許可なくいきなり隣に座られるなんて、きっと強引すぎて嫌なはずだ。

ほんの一瞬だけだが、目を瞬いたフェリクス様を見て、反応があったことに私は若干気を良くする。

ここでさらなる追撃だ。

「なんだか暑くありませんか? もうすぐ秋だというのにまだまだ暖かな気候ですよね」

そう言いつつ、私はドレスの上に羽織っていたシフォン素材のボレロをフェリクス様の目の前でゆっくりと脱いでいく。

羽織ものが脱ぎ去られ、胸元や鎖骨、肩などドレスから剥き出しになった素肌が露わになった。

これはエバから教えてもらった方法の一つだ。

目の前で色っぽく脱ぐのが色仕掛けになるらしい。

 ……果たして色っぽさを私が出せているかは心配なところだけれど、とりあえずフェリクス様の視線は感じるわね。

羽織ものとはいえ、男性の前で脱ぐ姿を見せるなど、まさに色仕掛けそのものだろう。

きっとフェリクス様もはしたなさに呆れて目が点になっているに違いない。

 ……この調子で次を仕掛けるわよ!
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