平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
フェリクス様がティーカップをテーブルの上に置いたのを視界に入れ、私は次なる手を繰り出す。
「フェリクス様が召し上がっていた紅茶は私が頂いたものとは違う茶葉なのですよね? そちらの味わいも気になります。一口だけ味見させて頂きますね?」
にっこり笑い掛け、そのままフェリクス様が今しがたまで飲んでいたティーカップを手に取り、そのカップに自身の唇を付ける。
間接的な口づけだ。
これもエバに教えてもらった方法である。
色っぽさは低めだが、少しでも相手の気を惹きたい時に積極的な女性はこうやって仕掛けているらしい。
……人の唇が触れたところに自分も唇をつけるなんて初めての経験だわ。直接的な口づけではないけれど、これはこれで……。
平然とやってのけているものの、実は内心ではとてもソワソワしていた。
大胆なことをしている自覚はあるので、恥ずかしさを必死に押し殺しているのだ。
そんな心情を誤魔化すために、私はフェリクス様の紅茶を一口飲んだ後、お茶請けとしてテーブルに並んでいるスコーンに手を伸ばして口にする。
もぐもぐと咀嚼をしていると、しばらく口をつぐんでいたフェリクス様がふいにふふっと小さな笑いを漏らした。
「僕が飲んでいた方の紅茶の茶葉はどう?」
「お、美味しいです!」
「一口で味見できたの? なんだったらもっと飲んでくれても構わないよ。あ、口移しで飲ましてあげようか?」
「えっ? く、口移し……ですか!? いいえ、結構です……! ま、間に合っております……!!」
断りもなく自分の飲み物に口をつけられてさぞ不快な思いを抱いていると期待していたフェリクス様は、前回同様またしてもなぜか楽しげな雰囲気だ。
にこにこと笑顔のまま、口移しなどという突拍子もないことを言ってくる始末である。
「シェイラ、唇の端にクロテッドクリームが付いてるよ?」
思わぬ発言に動揺している私にさらなる混乱を与えるかのごとく、フェリクス様はそう切り出すと、私の口元へと手を伸ばしてきた。
そして親指でクリームを拭ってくれる。
それだけでも突然唇に触れられたことで急激に心拍数が上がったというのに、さらなる驚きが私を襲う。
なんとフェリクス様は親指に付いたクリームをそのままペロリと舐めとったのだ。
「………!!!」
声にならない声が唇から漏れる。
……い、今の見間違えではないわよね!? フェリクス様は私の口に付いていたクリームをな、舐めた……!?
信じられない行動に目を剥く私をフェリクス様は平然とした様子で目を細めて眺めている。
「指で拭うより直接舌で舐めとった方が良かった?」
あげくには揶揄うようにこんなとんでもない発言を放った。
おかしい。
つい先程まで女の武器を全面に私の方が仕掛けているはずだったのに。
今や翻弄されているのは私の方である。
ここに来てようやく嫌われようと試みていることは、単にフェリクス様を面白がらせているだけなのではないかと薄々感じ始めた私だった。
「フェリクス様が召し上がっていた紅茶は私が頂いたものとは違う茶葉なのですよね? そちらの味わいも気になります。一口だけ味見させて頂きますね?」
にっこり笑い掛け、そのままフェリクス様が今しがたまで飲んでいたティーカップを手に取り、そのカップに自身の唇を付ける。
間接的な口づけだ。
これもエバに教えてもらった方法である。
色っぽさは低めだが、少しでも相手の気を惹きたい時に積極的な女性はこうやって仕掛けているらしい。
……人の唇が触れたところに自分も唇をつけるなんて初めての経験だわ。直接的な口づけではないけれど、これはこれで……。
平然とやってのけているものの、実は内心ではとてもソワソワしていた。
大胆なことをしている自覚はあるので、恥ずかしさを必死に押し殺しているのだ。
そんな心情を誤魔化すために、私はフェリクス様の紅茶を一口飲んだ後、お茶請けとしてテーブルに並んでいるスコーンに手を伸ばして口にする。
もぐもぐと咀嚼をしていると、しばらく口をつぐんでいたフェリクス様がふいにふふっと小さな笑いを漏らした。
「僕が飲んでいた方の紅茶の茶葉はどう?」
「お、美味しいです!」
「一口で味見できたの? なんだったらもっと飲んでくれても構わないよ。あ、口移しで飲ましてあげようか?」
「えっ? く、口移し……ですか!? いいえ、結構です……! ま、間に合っております……!!」
断りもなく自分の飲み物に口をつけられてさぞ不快な思いを抱いていると期待していたフェリクス様は、前回同様またしてもなぜか楽しげな雰囲気だ。
にこにこと笑顔のまま、口移しなどという突拍子もないことを言ってくる始末である。
「シェイラ、唇の端にクロテッドクリームが付いてるよ?」
思わぬ発言に動揺している私にさらなる混乱を与えるかのごとく、フェリクス様はそう切り出すと、私の口元へと手を伸ばしてきた。
そして親指でクリームを拭ってくれる。
それだけでも突然唇に触れられたことで急激に心拍数が上がったというのに、さらなる驚きが私を襲う。
なんとフェリクス様は親指に付いたクリームをそのままペロリと舐めとったのだ。
「………!!!」
声にならない声が唇から漏れる。
……い、今の見間違えではないわよね!? フェリクス様は私の口に付いていたクリームをな、舐めた……!?
信じられない行動に目を剥く私をフェリクス様は平然とした様子で目を細めて眺めている。
「指で拭うより直接舌で舐めとった方が良かった?」
あげくには揶揄うようにこんなとんでもない発言を放った。
おかしい。
つい先程まで女の武器を全面に私の方が仕掛けているはずだったのに。
今や翻弄されているのは私の方である。
ここに来てようやく嫌われようと試みていることは、単にフェリクス様を面白がらせているだけなのではないかと薄々感じ始めた私だった。