平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
マルグリットを部屋から追い払い、シェイラと二人きりになった僕は自分の思い通りの展開にすこぶる気分を良くする。

こうしてシェイラと真正面から顔を合わせるのも久しぶりのことだ。

つい彼女の顔をじっと眺めてしまう。

相変わらず綺麗な容貌だとは思うが、それよりも僕はシェイラの内面に強く惹かれている。

セイゲル語を真摯に学ぶところも、無防備に独り言をつぶやくところも、好物のローストビーフを夢中で頬張るところも、僕に笑顔を向けつつ冷めた目で見てくるところも、僕から距離を取ろうと足掻いているところも、興味のあることに対しては可愛い笑顔を見せてくれるところも。

見ているだけで飽きないし面白い。

僕を常に楽しい気分にさせてくれる。

なんとか僕を避けようとする姿からは、儚く大人しそうな外見に反して彼女の意思の強さや頑固さ、さらには計算高さも窺えるが、そこもまたいいと思うのだから、どれほど自分が彼女に傾倒しているかが分かる。

 ……まったく僕はすでにシェイラに囚われているなぁ。マルグリットも想い人であるリオネルに会える機会をこんなふうに心待ちにしていたのかもね。今ならもう少し気を利かせてあげれば良かったかなって思うよ。

初めてマルグリットに共感を抱きつつ、いつまでもシェイラを見つめているわけなはいかないと僕はまずは主目的であるセイゲル語授業の件を切り出した。

シェイラと意見を交わして、今後の進め方や次の打合せの議題なども決めていく。

一通りの話が終わったところで、さてここからは私的な話をしても良いかなと話題を変えようとした。

そこで予想外のことが起きる。

「そんなことよりフェリクス様。今日のフェリクス様はいつにも増して麗しくていらっしゃいますね。お召し物もとてもお似合いです。フェリクス様の綺麗な髪の色が映えると思います!」

いきなりシェイラが話を切り替えてきた。

そこまではいい。
そういうこともあるだろう。

だが、シェイラがあからさまに僕の容姿を褒めてくる上に、澄んだ水色の瞳を潤ませて僕を見つめてくるのは明らかに異常事態だった。

 ……ん? これは一体……?

今までにないシェイラの言動に首を傾げざるを得ない。

思わず自分の身に付けている服を見下ろし、シェイラが突然褒め出すような何か特別な要素があったか確認してしまったくらいだ。
< 58 / 142 >

この作品をシェア

pagetop