平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
そう結論付けた僕は、ゴミを取ってくれたお礼を口にしたのちに、肩に触れているシェイラの手に自身の手を重ねた。

彼女の滑らかな肌の感触が直に伝わってくる。

この僕の行動にはシェイラも驚愕を見せ、目を白黒していた。

手を振り払っていいのかどうか相当苦悩しているようであたふたしている様子が可愛い。

困ったように僕を見つめてくるが、その視線には気づかないふりをして僕はこれ幸いと手を握り続けた。

 ……そもそもシェイラが仕掛けてきたのだから僕は悪くないよね? 自業自得だよ。

シェイラが密かに悔しそうな顔をしているのを鑑みるに、おそらく彼女はまた次も何か仕掛けてきそうだ。

僕に嫌われるために有効だと思っているのだろうが、他の令嬢ならば不快極まりないものの、シェイラであれば全く問題ない。

むしろ嬉しいくらいだ。

好きな女性が積極的に迫って来るのを嫌がる男なんていないだろう。

だからそもそもシェイラの狙いは破綻している。

でもそれを僕がわざわざ教えてあげる義務もないので、僕はこの状況を十分に利用させてもらうつもりだった。


◇◇◇

次にシェイラに会ったのは王城の応接室でだった。

政務が重なり、しばらく忙しくしていたため、シェイラには王城までご足労願った次第だ。

ちなみに邪魔者となりそうなマルグリットと離すという意図もある。

念には念を入れ、リオネルには同席不要の旨を告げ、学園に行ってマルグリットに意見を聞いて来て欲しいと仕事を頼んだ。

もちろん架空の仕事ではなくちゃんとした正規の仕事だ。

マルグリットへはリオネルと会える機会を提供したのだから、双方が利益を得られる素晴らしい采配ではないだろうか。

そうして作り出したシェイラとの二人での打合せだが、予想は的中することとなった。

案の定、シェイラがまた仕掛けてきたのだ。

しかも今回はこの前を上回るものだった。

まず初手から全力だ。

真面目な話し合いを終えるやいなや、シェイラは僕の隣に座ってきた。

一つのソファーに並んで腰掛ける形になり、物理的に一気に距離が近くなる。

少し横にずれれば身体が触れる近さで、仲睦まじい婚約者や恋人同士が好む座り方だ。

この距離感の中、シェイラは「暑いですね」と溢し、おもむろに身に付けていた羽織物を脱ぎ出した。

すぐ目の前でシェイラの白い肌が露わになり、吸い込まれるように目が釘付けになる。

 ……見てしまうのは不可抗力だなぁ。それにしてもこうも大胆に来るとは。

この前はひたすら可愛い感じだったが、今日は色っぽさも加算されている。

誰かに入れ知恵でもされたのだろうか。
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