平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
そんなふうに考察していると、シェイラはさらに積極的に動いた。

「フェリクス様が召し上がっていた紅茶は私が頂いたものとは違う茶葉なのですよね? そちらの味わいも気になります。一口だけ味見させて頂きますね?」

そう言って僕が飲んでいた紅茶を手に取り飲み始めたのだ。

彼女の柔らかそうな唇が、僕が口をつけたばかりのティーカップに触れる様は色っぽくてなかなかに悩ましい。

ちょっと驚いてその様子を眺めていたら、それなりに無理をしていたのか、シェイラの耳が赤くなっていることに気づいた。

すぐに口づけたカップも戻すと、照れ隠しのようにスコーンを頬張り出す。

 ……あ〜可愛い。無理しながらも一生懸命頑張ってる感じがたまらないなぁ。

つい楽しくて笑いが漏れてしまう。

どうやらシェイラは一通り仕掛け終わったようなので、今度は僕からお返しをする番だ。

「僕が飲んでいた方の紅茶の茶葉はどう?」

「お、美味しいです!」

「一口で味見できたの? なんだったらもっと飲んでくれても構わないよ。あ、口移しで飲ましてあげようか?」

「えっ? く、口移し……ですか!? いいえ、結構です……! ま、間に合っております……!!」

シェイラが動揺しそうな言葉をあえて口にして、彼女をからかう。

もちろん言葉だけに留まらない。

間接的な口づけを僕からも仕掛け返すのだ。

僕はシェイラの唇の端に付いたクリームを指で拭って、それを彼女に見せつけるように舐めて見せた。

シェイラは絶句し、瞬時に顔を真っ赤に染める。

「指で拭うより直接舌で舐めとった方が良かった?」

追い討ちをかけると、心が折れたのか急に大人しくなってしまった。

それにしてもこんな色仕掛けは絶対に他の男にはして欲しくない。

ものすごく目に毒なのだ。

シェイラに恋慕を抱く者が瞬く間に量産され、下手したら血生臭い争いにまで発展しかねないと思う。

 ……それに単純にこんな可愛くて色っぽいシェイラの姿を他の男に見せたくないしね。僕だけが独占したいところだけど、その道のりはまだ長そうだなぁ。僕に嫌われたくてこんなことをしているわけだしね。

積極的に迫られて嬉しいのやら悲しいのやら複雑な心境だった。


◇◇◇

「ただいま戻りました」

シェイラとの面会を終え、執務室で書類仕事に励んでいると、リオネルが学園から戻ってきた。

リオネルの表情や態度から察するに、特にマルグリットとは何事も進展はなかったようだ。

もしマルグリットの気持ちにリオネルが気がついたのであれば、もっと動揺が顔に出るはずである。
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