平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
 ……マルグリットも鈍いリオネル相手だと大変だろうね。ちょっと同情するよ。まあ、マルグリットの場合は僕と違って好意を相手に知られたくない可能性も否めないけど。

「マルグリット様からは色々女性視点で助言を頂いてきました。あとで報告書にまとめますね。フェリクス様の方はシェイラ嬢との話し合いはいかがでしたか?」

「こちらも順調に進んだよ」

僕たちは軽く口頭でそれぞれの打合せ内容について報告をし合う。

必要な報告を済ませ、リオネルは執務室内にある自身の机に向かおうとしたところで、何かを思い出したのかふと足を止めた。

「そういえば、先程王城内でシェイラ嬢とバッケルン公爵子息が話しているのを見かけましたよ。どうやら偶然出くわしたようでした」

それは心穏やかではいられない報告だ。

なにしろ二人は約半年前まで婚約者だった間柄なのだから。

「……それで、どんな様子だった?」

「遠目でしたのではっきりは分かりませんが、なんとなくバッケルン公爵子息の方からシェイラ嬢に話しかけているように見えましたね。シェイラ嬢は相槌をうつだけで受身な印象でした」

もしやギルバートはまだシェイラに未練でもあるのだろうか。

自分から婚約破棄を申し渡しておいてそれはないと思いたいが。

「ちょっと小耳に挟んだところ、このところバッケルン公爵子息とストラーテン侯爵令嬢の仲は上手くいってないらしいですよ。バッケルン公爵子息はシェイラ嬢とよりを戻したいと仲間内に溢しているという噂もあります」

リオネルによると社交界で囁かれる出所不明の噂だというが、先程の目撃談も考慮すると、あながち馬鹿にできない話だと肌で感じる。

事実だとすれば、身勝手な振る舞いをするギルバートに怒りが込み上げてくる。

 ……自分からシェイラを手放したのはギルバートだ。今更もう遅い。絶対にシェイラは渡したくない。

とは思いつつも、無念ながら現状僕自身も決してシェイラを手に入れているわけではない。

今日も今日とて攻防戦を繰り広げたばかりだ。

ギルバートが再びシェイラを手中に収めてしまうかもしれないと考えると、にわかに焦りを感じる。

 ……これは僕ももっと積極的に動くべきかもな。シェイラの仕掛けを受けるだけではなく、こちらからも仕掛けて僕を意識させて振り向かせよう。


こうして彼女の元婚約者の噂を耳にして芽生えた嫉妬心から、僕の行動はますます加速していくことになる。
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