平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

14. 城下町デート①

エーデワルド王国の王都にはニつの城下町が存在する。

王城から東と西に位置しており、それぞれが特色を持って発展していた。

東の城下町は、主な客層が富裕層で、高級料理店やスイーツ専門店、ドレスショップなどが多い。

もう一方の西の城下町は、手頃な価格の商品を取り扱う店、大衆酒場や青果店、材木屋などが並ぶ。

そしてこの東と西の城下町の真ん中には、ある人気スポットが位置している。

非常に広大で緑豊かな公園・ナチュールパークだ。

王都の人々の憩いの場として、今日も今日とてナチュールパークは休日を楽しむ老若男女で賑わいを見せていた。


◇◇◇


「着いたみたいだよ」

子爵邸から馬車で移動すること数十分。

馬車が停車し、御者が外から扉を開けてくれる。

「足元に気をつけて」

先に降り立ったフェリクス様は、そう言ってにこやかに笑い、中にいる私に向けて手の平をすっと差し出した。

どうやらエスコートをしてくれるようだ。

流れるような振る舞いが実に様になっている。

馬車の乗り降り口は地面よりも高い位置にあり、人の手を借りて降車する方が安全だ。

そのため私は父に手を借りる時と同じようなつもりでフェリクス様の右手に自身の手をそっと重ねて、段差に気をつけながら馬車を降りた。

外に出ると、途端に秋の訪れを感じさせる澄んだ空気が肌を撫でる。

刺すような太陽の日差しが和らぎ、暑すぎず寒すぎない心地の良い気候だ。

「じゃあ夕方に東にあるマクシム商会に馬車をまた頼むよ」

「承知いたしました、フェリクス殿下」

馬車から降りた私が目の前に広がる景色に意識を奪われていると、フェリクス様はその間に御者に指示を出していた。

今から夕方まで側近も護衛もなく、二人きりになるようだ。

移動している時点でそのことは薄々察していたが、仮にも王太子殿下がこの無防備さで良いのだろうか。

それだけではない。

聞きたいことは他にも多数ある。

「あの、視察に行くのはマクシム商会でしたよね? ……なぜ今私はナチュールパークにいるのでしょう?」

まずはこれだ。

てっきり到着した場所はマクシム商会の前だと思い込んでいた私は外に出て本当に驚いた。

一面に広がる芝生や噴水がいきなり目に飛び込んできたのだから。


「言ってなかったっけ? マクシム商会に訪問する旨を伝えたら、商会長が案内すると申し出てくれたんだ。それで約束の時間までまだ時間があるから、少し寄り道していこうかと思って。せっかく城下町に来たことだしね」

そんなの聞いてない、と思わず突っ込みそうになった。

 ……だって、それだとなんだか視察というよりもデートみたいだわ。
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