平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
他の生徒が寄りつかず落ち着くため、私が普段一人で過ごす場所として愛用している学園内の庭で、二人が熱い抱擁と口づけを交わしているのを目撃し、その流れでギルバート様から婚約破棄を口にしたのだ。
他の令嬢に心変わりされ、婚約破棄を申し渡されているという不名誉な場面だというのに、私の心は歓喜に沸いていた。
……二年、実に長かったわ……! この瞬間を待ち望んでいたのよ……!!
喜びから今にも踊り出したい気分ではあったが、それを表には決して出してはいけない。
あくまでも公爵令息様からの突然の婚約破棄に衝撃を受け、悲しみに暮れる私を演じなければならない。
最初からこれを狙っていたと露呈しないように。
「……ええ、分かっております。お二人の邪魔をするつもりはありません。私は身を引き、ギルバート様との婚約破棄を受け入れます」
私はこれでもかというくらい悲しげな表情を作り、言葉を絞り出すように述べる。
きっとさぞ傷心の令嬢に見えることだろう。
自分で自分の演技に心の中で称賛を贈りつつ、私はその場からさっさと去ろうと一歩を踏み出そうとした。
その時だった。
「その婚約破棄、バッケルン公爵家とアイゼヘルム子爵家が後から揉めないように僕が証人になってあげるよ」
背後から耳触りの良い声が聞こえてきて、その場に予想外の人物が現れる。
驚いて振り返れば、そこに立っていたのはフェリクス王太子殿下だった。
私より三歳年上である王太子殿下とは、学園の在籍期間が重なっていない。
でもその存在自体はもちろん知っている。
類稀なる美しい容姿、的確に物事を判断する聡明さ、人当たりが良い温和な性格、剣の腕も一流だという強さ。
欠点らしい欠点がなく、「無敵王子」と名高いからだ。
……そんな王太子殿下がなぜここに? もう卒業して生徒でもないはずなのに?
同じ疑問を感じたのであろう。
「お、王太子殿下……⁉︎」
「なぜこちらに……⁉︎」
ギルバート様とカトリーヌ様も先程までの勝ち誇った表情から一転、驚きを顔に宿しながら王太子殿下に問いかけている。
「悪いね。偶然通りかかり先程の会話を耳にしてしまって、つい口を挟んでしまったんだ。なにしろ当事者だけで口頭で確認した婚約破棄は揉め事の種になりがちだからね。第三者として王族である僕が証人になってあげようかと思って。どうかな?」
王太子殿下はそう説明すると人好きのする笑顔を私たちに向けた。
もちろん王族からの善意の申し出を断れる立場の者などこの場にはいない。
それに下級貴族で立場の一番弱い私にとっては、非常にありがたい話ではある。
これであとからこの婚約破棄によって子爵家が不利になるということはないだろう。
「じゃあ、改めて整理するね。バッケルン公爵子息ギルバートは、今日この時をもってアイゼヘルム子爵令嬢のシェイラ嬢との婚約は破棄し、ストラーテン侯爵令嬢のカトリーヌ嬢を新たな婚約者に望むということで間違いないかな?」
突然の出来事になんと返答していいか分からず誰しもが呆気に取られて無言を貫く中、それを無言の肯定と捉えた王太子殿下はどんどん話を進めていく。
当事者であるはずの私たちは、軽やかにその場の空気を支配する王太子殿下のペースに乗せられ、ただコクリと頷いたのだった。
他の令嬢に心変わりされ、婚約破棄を申し渡されているという不名誉な場面だというのに、私の心は歓喜に沸いていた。
……二年、実に長かったわ……! この瞬間を待ち望んでいたのよ……!!
喜びから今にも踊り出したい気分ではあったが、それを表には決して出してはいけない。
あくまでも公爵令息様からの突然の婚約破棄に衝撃を受け、悲しみに暮れる私を演じなければならない。
最初からこれを狙っていたと露呈しないように。
「……ええ、分かっております。お二人の邪魔をするつもりはありません。私は身を引き、ギルバート様との婚約破棄を受け入れます」
私はこれでもかというくらい悲しげな表情を作り、言葉を絞り出すように述べる。
きっとさぞ傷心の令嬢に見えることだろう。
自分で自分の演技に心の中で称賛を贈りつつ、私はその場からさっさと去ろうと一歩を踏み出そうとした。
その時だった。
「その婚約破棄、バッケルン公爵家とアイゼヘルム子爵家が後から揉めないように僕が証人になってあげるよ」
背後から耳触りの良い声が聞こえてきて、その場に予想外の人物が現れる。
驚いて振り返れば、そこに立っていたのはフェリクス王太子殿下だった。
私より三歳年上である王太子殿下とは、学園の在籍期間が重なっていない。
でもその存在自体はもちろん知っている。
類稀なる美しい容姿、的確に物事を判断する聡明さ、人当たりが良い温和な性格、剣の腕も一流だという強さ。
欠点らしい欠点がなく、「無敵王子」と名高いからだ。
……そんな王太子殿下がなぜここに? もう卒業して生徒でもないはずなのに?
同じ疑問を感じたのであろう。
「お、王太子殿下……⁉︎」
「なぜこちらに……⁉︎」
ギルバート様とカトリーヌ様も先程までの勝ち誇った表情から一転、驚きを顔に宿しながら王太子殿下に問いかけている。
「悪いね。偶然通りかかり先程の会話を耳にしてしまって、つい口を挟んでしまったんだ。なにしろ当事者だけで口頭で確認した婚約破棄は揉め事の種になりがちだからね。第三者として王族である僕が証人になってあげようかと思って。どうかな?」
王太子殿下はそう説明すると人好きのする笑顔を私たちに向けた。
もちろん王族からの善意の申し出を断れる立場の者などこの場にはいない。
それに下級貴族で立場の一番弱い私にとっては、非常にありがたい話ではある。
これであとからこの婚約破棄によって子爵家が不利になるということはないだろう。
「じゃあ、改めて整理するね。バッケルン公爵子息ギルバートは、今日この時をもってアイゼヘルム子爵令嬢のシェイラ嬢との婚約は破棄し、ストラーテン侯爵令嬢のカトリーヌ嬢を新たな婚約者に望むということで間違いないかな?」
突然の出来事になんと返答していいか分からず誰しもが呆気に取られて無言を貫く中、それを無言の肯定と捉えた王太子殿下はどんどん話を進めていく。
当事者であるはずの私たちは、軽やかにその場の空気を支配する王太子殿下のペースに乗せられ、ただコクリと頷いたのだった。