平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
さすが「セイゲルの品物を買うならマクシム商会」という地位をエーデワルド王国内で確立している商会である。
「なにかアイゼヘルム子爵令嬢の気になられるものはございましたか?」
店内を見て回る私に穏やかな眼差しを私に向けてきた商会長は、まるで子供を優しく見守る父親のようだ。
親愛の情を宿すその瞳を見て、彼にとっては元恋人の娘である私は娘みたいなものなのだろうと感じる。
かく言う私も、初対面にも関わらず商会長には親しみを抱いており、心を許している自覚があった。
「どれも素敵で、どれも気になります。これだけの品を仕入れるのは大変ではありませんか?」
「おっしゃる通り、当初は困難でしたが、独自の仕入れルートを築けましたので今では安定的に仕入れられるようになりました。私も定期的にあちらの国へ訪れておりまして、最新の品々をご提供できていると自信を持っております」
「素晴らしい営業努力ですね」
商会の取り組みを教えてもらいながら、改めて並べられたガラス細工に目を向けると、本来ならばセイゲル共和国でしか手に入らないものをこうして自国で購入できる環境を作ってくれたセイゲル商会には頭が下がる思いだ。
ありがたいことだなぁと身に染みて感じる中、ふと店内の隅の方に置かれたガラス細工に目に入った。
「あ、これ……」
「サンキャッチャーですね。窓際に飾ると太陽の光を受けてキラキラと輝き非常に美しいですよ。当店一押しの品ではあるのですが、特に春夏がおすすめのため、今は少し隅の方に陳列しているのです。気になられますか?」
「あ、いえ。実はある方に頂いて学園寮の自室にすでに飾っているんです。季節問わず、部屋が華やぐのでとても気に入っています」
部屋の様子を思い浮かべながら答えつつ、私は少し離れたところを見て回っているフェリクス様にチラリと視線を向けた。
いきなり贈り物を頂いたあの時はただただ戸惑ったのだが、今やそれも懐かしく感じるから不思議だ。
なんだかんだサンキャッチャーを大切にしている私がいる。
……それにしても、視察を始めてからなんだかフェリクス様の機嫌が急降下している気がするのだけれど、気のせいかしら?
この商会に来るまでは、あれほど楽しげに私を散々翻弄していたというのに、今はそれが嘘だったかのように真面目な顔をしてフェリクス様はセイゲルの品々を眺めている。
視察なのだから当然と言えば当然なのだが、落差が激しく調子が狂ってしまいそうだ。
「……なるほど。そういうことでしたか」
その時私の目線を追ってフェリクス様の方を見ていた商会長がふと何かをつぶやいた気がした。
だけどフェリクス様へ意識が向いていた私の耳には届いていなかったのだった。
◇◇◇
「マクシム男爵、今日は視察に協力してくれて助かったよ。ありがとう。僕たちはこれで失礼するよ」
「お忙しい中ありがとうございました」
「とんでもございません。ぜひお二方ともまた当商会へお越しください」
しばしの視察を終え、フェリクス様と私は商会長へお礼を述べると、商会の前に到着していた馬車へと乗り込んだ。
「なにかアイゼヘルム子爵令嬢の気になられるものはございましたか?」
店内を見て回る私に穏やかな眼差しを私に向けてきた商会長は、まるで子供を優しく見守る父親のようだ。
親愛の情を宿すその瞳を見て、彼にとっては元恋人の娘である私は娘みたいなものなのだろうと感じる。
かく言う私も、初対面にも関わらず商会長には親しみを抱いており、心を許している自覚があった。
「どれも素敵で、どれも気になります。これだけの品を仕入れるのは大変ではありませんか?」
「おっしゃる通り、当初は困難でしたが、独自の仕入れルートを築けましたので今では安定的に仕入れられるようになりました。私も定期的にあちらの国へ訪れておりまして、最新の品々をご提供できていると自信を持っております」
「素晴らしい営業努力ですね」
商会の取り組みを教えてもらいながら、改めて並べられたガラス細工に目を向けると、本来ならばセイゲル共和国でしか手に入らないものをこうして自国で購入できる環境を作ってくれたセイゲル商会には頭が下がる思いだ。
ありがたいことだなぁと身に染みて感じる中、ふと店内の隅の方に置かれたガラス細工に目に入った。
「あ、これ……」
「サンキャッチャーですね。窓際に飾ると太陽の光を受けてキラキラと輝き非常に美しいですよ。当店一押しの品ではあるのですが、特に春夏がおすすめのため、今は少し隅の方に陳列しているのです。気になられますか?」
「あ、いえ。実はある方に頂いて学園寮の自室にすでに飾っているんです。季節問わず、部屋が華やぐのでとても気に入っています」
部屋の様子を思い浮かべながら答えつつ、私は少し離れたところを見て回っているフェリクス様にチラリと視線を向けた。
いきなり贈り物を頂いたあの時はただただ戸惑ったのだが、今やそれも懐かしく感じるから不思議だ。
なんだかんだサンキャッチャーを大切にしている私がいる。
……それにしても、視察を始めてからなんだかフェリクス様の機嫌が急降下している気がするのだけれど、気のせいかしら?
この商会に来るまでは、あれほど楽しげに私を散々翻弄していたというのに、今はそれが嘘だったかのように真面目な顔をしてフェリクス様はセイゲルの品々を眺めている。
視察なのだから当然と言えば当然なのだが、落差が激しく調子が狂ってしまいそうだ。
「……なるほど。そういうことでしたか」
その時私の目線を追ってフェリクス様の方を見ていた商会長がふと何かをつぶやいた気がした。
だけどフェリクス様へ意識が向いていた私の耳には届いていなかったのだった。
◇◇◇
「マクシム男爵、今日は視察に協力してくれて助かったよ。ありがとう。僕たちはこれで失礼するよ」
「お忙しい中ありがとうございました」
「とんでもございません。ぜひお二方ともまた当商会へお越しください」
しばしの視察を終え、フェリクス様と私は商会長へお礼を述べると、商会の前に到着していた馬車へと乗り込んだ。