平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
フェリクス様にしては珍しく、なんだか歯切れが悪い。

言いたくないようなら無理に聞き出すつもりはなかったため、それ以上は尋ねず、私はただ小さく首を傾げた。

「あ――…、もうこの際だから聞いてしまおうかな。あのさ、シェイラ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「私にですか?」

「そう、シェイラに。……マルクス男爵とシェイラってどういう関係なの?」

「えっ!? 商会長との関係、ですか?」

思いもよらない角度の質問に私は鳩が豆鉄砲を食ったようになる。

なぜ今この問いが飛び出したのか理解できない。

驚きで目をパチパチさせている私に、フェリクス様は質問の背景を補足するように言葉を足す。

「二人はさ、今日が初対面だったよね? なのに顔を合わせた途端、二人の間にはただならぬ空気が流れていたよ。しかもシェイラはマクシム男爵に妙に心を許している感じだったしね」

 ……第三者から見ても私と商会長の様子は違和感を覚えるものだったのね。

「何度も見つめ合ってたよね」と言われ、否定できなかった。

マクシム男爵のことを話そうと思えば、亡き母の存在に触れざるを得ないが、どうしようかと私は心の中で葛藤する。

元平民だった母の個人的な話など、この国の頂点である王族に聞かせるようなものではないと思う。

でもこのまま商会長との関係を誤解され続けるのもなんだか憚られた。

「まず申し上げておきますが、商会長とはフェリクス様が思われているような関係ではありません……!」

「でも明らかに様子がおかしかったよね? ただの初対面の相手だと言い切るには無理があるくらいに」

「……その質問にお答えするためには、かなり個人的な身の上話をする必要があります。とても王族の方にお話するようなお話ではないのですが……」

「そんなこと気にしなくていいよ。僕は聞かせて欲しいな」

こうもはっきり聞きたいと言われてしまえば話すしかないだろう。

私は軽く一度息を吐き出すと、母が父と結婚することになった経緯(いきさつ)や、商会長が母の元恋人であることなどを一気に打ち明けた。

「――なので、商会長は一目見て私が母の娘であることに気が付いたのだと思います。その反応で私も話に聞いていた母の元恋人が商会長なのだと分かったんです」

「なるほど。それであの時食い入るように見つめ合っていたんだね」

フェリクス様はひどく納得したらしく深く頷いている。

どうやら変な誤解はされなくて済みそうだ。
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