平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
「シェイラは◯◯だった」
「シェイラなら◯◯してくれる」
「シェイラだったら◯◯しない」

口を開けば、シェイラ、シェイラ、シェイラ!

あんな格下の女と比べられるだけでも業腹だというのに。

なにかとあの女と比較してくるギルバート様に腹が立ち、わたくしの方もだんだんとギルバート様から心が離れていく。

それに比例してわたくし達の関係はギクシャクし出してしまった。

そんな頃に出席したのが今夜の夜会だった。

久しぶりにギルバート様と共に夜会に出席したのだけど、以前とは周囲から向けられる視線が変わっていた。

以前のような羨望の眼差しは一切ない。

感じ取ったのは憐れむような視線だ。

なぜ侯爵令嬢であるわたくしがこのような視線を向けられなければならないのかと苛立つ。

その理由が分かったのは、ギルバート様から離れてお手洗いへ行った時だ。

「カトリーヌ様をご覧になった?」

「ええ、もちろん。憐れなお方よね。せっかく略奪してギルバート様のご婚約者になったのに、ギルバート様はシェイラ様とよりを戻したいと口にされているのでしょう?」

「そうらしいわ。シェイラ様への未練がたっぷりなんですって。婚約破棄したことをひどく後悔なさっているみたいよ。社交界ではもう誰でも知っている噂になっているわ」

「手に入れた婚約者の気持ちを繋ぎ止められないなんて、カトリーヌ様はきっと魅力に欠けるお方なのね。結局シェイラ様に負けたようなものだわ」

クスクスと馬鹿にするように笑いながら、わたくしのことを女性達が話しているのを偶然耳にしてしまった。

その内容に愕然としてしまう。

こんな噂が社交界で知れ渡っているなんて、わたくしの立場がない。

このわたくしが嘲笑されるなんてあってはならないことであり、とても許容できるものではない。

周囲に向けてあの女への未練を口にしているというギルバート様にも腹が立つ。

「そういえば、シェイラ様といえばあの噂はお聞きになりました?」

「あの噂? いいえ、知らないわ。ぜひ聞かせてくださらない?」

「実はシェイラ様は最近フェリクス殿下と二人きりで会う仲になっておられるそうなの。先日ナチュールパークでお二人がデートしているのを見たという方がいるのよ」

「まあ! フェリクス殿下と!? フェリクス殿下はてっきりマルグリット様とご結婚されるものとばかり思っていたわ」

「ええ、私も同じでしたわ。でもシェイラ様はギルバート様に続き、フェリクス殿下のお心まで掴んでしまわれたみたいなの」

「さすがですわね。ギルバート様と婚約を破棄をされた時にはせっかくの玉の輿を逃すなんて運のない方だと思いましたけれど、さらにその上をいく相手に見初められるなんて。カトリーヌ様はさぞお悔しいでしょうね」
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