平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
そうとなれば、さっそくフェリクス殿下とお近づきになる方法を探らなければ。

確か侯爵家以上の上級貴族のみで懇親を深める夜会が近々予定されていたはずだ。

王族も出席すると聞いている。
 
 ……わたくしの魅力をフェリクス殿下へお披露目する絶好の機会だわ。誰よりも美しく着飾って、可愛らしくアプローチしなくってはね。

もうギルバート様のことなんてどうでもいい。

恥ずかしげもなくあの女への未練を口にする男のことなど興味のカケラもない。

今のわたくしの意識は完全にフェリクス殿下に向いていた。

 ……公爵家との婚約破棄を家格が下の我が家から申し出るのは難しいけれど、何も心配することはないわ。フェリクス殿下のお心を手に入れたら、ギルバート様との婚約解消を命令してもらえばいいだけね!

その時には、きっとあの女とギルバート様は悔しさに顔を歪めるはずだ。

フェリクス殿下に寄り添って二人を見下ろす自分の姿を想像するだけで気分が高揚してくる。

同時にフェリクス殿下にエスコートされながら夜会に出席し、周囲からの羨望を浴びる姿も脳裏に浮かべる。

未だかつて感じたことのないような最高の優越感が待っていることは確実であり、今から期待に胸が膨らむ。

 ……フェリクス殿下を虜にすれば、またわたくしは社交界で注目の的になるわね。今から楽しみだわ!


「ふふふっ」

「……カトリーヌ様?」

すでに怒りの感情は消え失せ、今やわたくしは未来へ想いを馳せて笑いが止まらない。

床に散らばったものを拾い終わったジェマはそんなわたくしを不思議そうな顔をして見上げていた。

「ジェマ、あなたにも王太子妃付きのメイドという名誉ある立場が近い将来待っているわよ。光栄に思いなさい。ただし、そのためにもわたくしに協力しなさいね?」

非常に気分が良くなったわたくしは満面の笑みで未来の予定をジェマに語ってあげた。

せっかく親切に教えてあげたというのに、愚鈍なメイドは喜ぶのではなく、目を点にして呆気に取られた顔をしたのであった。
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