平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

16. 小さな違和感

「マルグリット様、18歳のお誕生日おめでとうございます!」

冬でも色鮮やかな花々が美しく咲き誇る公爵家の温室で、今日はマルグリット様のお誕生日を祝うお茶会が催されていた。

招待を受け初めて訪れたフェルベルネ公爵家は、王城から程近い王都の一等地に建っており、子爵邸とは比べ物にならぬほどの大きな邸宅だった。

建物を一目見ただけで、権威と資金力が桁違いであることは容易に窺い知れ、さすが筆頭公爵家だと唸らされる。

案内された温室もこれまたスゴイものだった。

天井が高く開放感のある広々とした空間であり、その温室内には手をかけて育てられた美しい花々が咲き誇っている。

邸宅内にこれほどの温室があることにも驚かされるが、冬でも花々を楽しめる状態を維持するには相当なお金が投入されていることだろう。

この温室の維持費だけで、アイゼヘルム子爵家の邸宅がもう一つ購入できるのではないかと思えてくる。

やはり家格の差というのは、暮らしぶりに大きな違いをもたらすのだなと改めて実感した。

身分違いの結婚は苦労するという母の言葉は実に正しい。

やはり身の丈に合った結婚が一番だ。

「シェイラ、今日はわざわざ来てくれてありがとう。とても嬉しいわ。面識がない方も多くて気疲れしているのではない? 少しこちらにいらっしゃい」

主催者として出席している令嬢達のもとを回っていたマルグリット様は、最後に私のテーブルへとやって来た。

気遣うように声を掛けてくれた上に、温室の隣に用意された休憩室へと案内してくれる。

マルグリット様の言う通り、辺境伯家以上の令嬢が中心である他の出席者は私にとって初対面の方が多く、とても緊張が続いていたので正直その心遣いがとてもありがたかった。

「本当はシェイラと二人で気楽なお茶会を楽しみたかったのだけど、フェルベルネ公爵家の娘としてはこういう社交もこなさなくてはならないのよ。上辺だけのお付き合いや腹の探り合いは疲れるわ」

他に人がいない休憩室に入った途端、マルグリット様は不本意さを顔に滲ませながらため息を吐いた。

先程までの優雅で気品あふれる姿が取り払われ、感情をまっすぐ現すとても人間らしい姿に早変わりする。

「公爵令嬢も大変なのですね」

「ええ、そうなのよ。身分が高いっていうだけで注目されるし、嫉みや恨みを受けることもあるし、隙あらば失墜させようと画策する者もいるし、取り入ろうとしてくる者もいるし……とにかく気が抜けないわ」

切実な響きを宿す声に、マルグリット様の苦悩が窺える。

身分が高いというのも良いことばかりではなく、私には想像もできない苦労があるようだ。
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