平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
私の知らぬところでずいぶんと勝手な噂が広まっているようだ。

あれほど相思相愛の様子だったギルバート様とカトリーヌ様が険悪な雰囲気だったということにも驚きである。

 ……確かに先日もギルバート様はカトリーヌ様への不満を口にしていたけれど、マルグリット様から見ても険悪だと感じるくらいに関係が悪化しているなんて。

さすがにそう簡単に婚約を解消するようなことはないと思うが、また私の意思とは裏腹になにかしら巻き込まれそうな予感がして身震いがする。

「その様子ならシェイラにその気は全くなさそうね。もし万が一バッケルン公爵子息から妙なちょっかいを掛けられたらわたくしに遠慮なく言いなさいね? そういう時にこそ普段は煩わしい筆頭公爵家という威光を使わなければね」

「マルグリット様……! ありがとうございます!」

なんて心強い言葉だろうか。
持つべきものは頼りになる同性の友だ。

「それにしても自分から婚約破棄をしておいて、やり直したいだなんて勝手なことよね。まあ、新たな婚約者があれではそう思うのも仕方がないけれど」

「あれ、ですか? カトリーヌ様のことですよね?」

「ええ、そうよ。カトリーヌとかいう女、夜会でも随分と厚顔無恥な振る舞いをしていたわよ。婚約者と共に参加している場であるにも関わらず、あの男に執心な様子であからさまに言い寄っていたもの」

「そう、なんですか……」

その話を聞いてなんだか胸がザワリとした。

なぜかは分からない。

ただ、なんとなく胸がモヤモヤするような感じがした。

 ……カトリーヌ様はギルバート様に心変わりを促すほど女性として魅力的な方だもの。フェリクス様もそんな方にアプローチされれば心が動くに違いないわね。

積極的に迫るような女性が嫌いと聞いていたフェリクス様だったけど、この数ヶ月間の経験からそれは誤情報だったと私は思っている。

全く不快に感じている様子はなかったし、むしろどことなく嬉しそうだった。

自ら私の色仕掛けを上回るようなことをやり返されたくらいだ。

 ……そんなフェリクス様がカトリーヌ様から積極的に言い寄られたら、嫌がるどころかきっと嬉しいと思うはずだわ。

私に好意を持ってくださっていたのかもしれないが、それも簡単に心変わりするだろう。

実際にギルバート様がそうだった。
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