平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
予想外の質問だったのかシェイラは目を丸くした。
「商会長とはフェリクス様が思われているような関係ではありません……!」
そして慌てたようにハッキリとこう言い切ったのだが、ではなぜ初対面だったのに明らかにただならぬ空気を醸し出していたのかという疑問は尽きない。
そう重ねて問えば、シェイラは迷うような素振りを見せて逡巡している。
……これはやっぱり僕には話したくないってことだよね。シェイラが心を許し始めているかもと思ったのは早計すぎたなぁ……。
こっそり消沈していると、やがてシェイラは反応を窺うように水色の瞳を僕に向けてきた。
「……その質問にお答えするためには、かなり個人的な身の上話をする必要があります。とても王族の方にお話するようなお話ではないのですが……」
「そんなこと気にしなくていいよ。僕は聞かせて欲しいな」
シェイラのことならなんでも知りたい、そんな想いを込めて見つめ返せば、彼女はおずおずと語り出した。
それは亡くなった彼女のお母上の身の上話だった。
シェイラの母――アイゼヘルム子爵夫人が元平民だというのは一応知っていたが、結婚前にマクシム男爵と恋人関係だったことは初耳で驚きだった。
名前は知らなかったものの、恋人の話はお母上から聞かされていたらしいシェイラは、マクシム男爵と今日顔を合わせてピンと来たという。
同様に、お母上に顔が似ているというシェイラを見てマクシム男爵が気付くのも納得だ。
……それであのような空気だったのか。
納得と同時に、シェイラがなぜセイゲル語を勉強していたのかの理由にも思い至り、僕は尋ねる。
以前聞いた時には「なんとなく」と曖昧に答えたシェイラだったが、今日は本当の理由を打ち明けてくれた。
「亡くなった母を悼みたかったのかも」と瞳に悲しい影をよぎらせるシェイラは、とても儚げで今にも消えてしまいそうだった。
だから気付けば衝動的に抱きしめていた。
僕の両親は健在であるし、近しい人を亡くした経験もないため、シェイラの抱える気持ちのすべてを分かってあげることはできないのかもしれない。
でも少しでも気持ちに寄り添いたいと思った。
突然抱きしめられたことに最初は驚いていたシェイラだったが、次第に身体の力を抜いて身を預けてくれた。
身体的な距離もそうだが、なによりも今まで話してくれなかった心の内を見せてくれたことが嬉しい。
シェイラとの距離が縮まったのを僕は如実に感じた。
そしてそれこそが今、思わず顔が緩むほど僕が上機嫌である理由なのだった。
「商会長とはフェリクス様が思われているような関係ではありません……!」
そして慌てたようにハッキリとこう言い切ったのだが、ではなぜ初対面だったのに明らかにただならぬ空気を醸し出していたのかという疑問は尽きない。
そう重ねて問えば、シェイラは迷うような素振りを見せて逡巡している。
……これはやっぱり僕には話したくないってことだよね。シェイラが心を許し始めているかもと思ったのは早計すぎたなぁ……。
こっそり消沈していると、やがてシェイラは反応を窺うように水色の瞳を僕に向けてきた。
「……その質問にお答えするためには、かなり個人的な身の上話をする必要があります。とても王族の方にお話するようなお話ではないのですが……」
「そんなこと気にしなくていいよ。僕は聞かせて欲しいな」
シェイラのことならなんでも知りたい、そんな想いを込めて見つめ返せば、彼女はおずおずと語り出した。
それは亡くなった彼女のお母上の身の上話だった。
シェイラの母――アイゼヘルム子爵夫人が元平民だというのは一応知っていたが、結婚前にマクシム男爵と恋人関係だったことは初耳で驚きだった。
名前は知らなかったものの、恋人の話はお母上から聞かされていたらしいシェイラは、マクシム男爵と今日顔を合わせてピンと来たという。
同様に、お母上に顔が似ているというシェイラを見てマクシム男爵が気付くのも納得だ。
……それであのような空気だったのか。
納得と同時に、シェイラがなぜセイゲル語を勉強していたのかの理由にも思い至り、僕は尋ねる。
以前聞いた時には「なんとなく」と曖昧に答えたシェイラだったが、今日は本当の理由を打ち明けてくれた。
「亡くなった母を悼みたかったのかも」と瞳に悲しい影をよぎらせるシェイラは、とても儚げで今にも消えてしまいそうだった。
だから気付けば衝動的に抱きしめていた。
僕の両親は健在であるし、近しい人を亡くした経験もないため、シェイラの抱える気持ちのすべてを分かってあげることはできないのかもしれない。
でも少しでも気持ちに寄り添いたいと思った。
突然抱きしめられたことに最初は驚いていたシェイラだったが、次第に身体の力を抜いて身を預けてくれた。
身体的な距離もそうだが、なによりも今まで話してくれなかった心の内を見せてくれたことが嬉しい。
シェイラとの距離が縮まったのを僕は如実に感じた。
そしてそれこそが今、思わず顔が緩むほど僕が上機嫌である理由なのだった。