平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
◇◇◇
「フェリクス殿下、先程噂を耳にしたのですけれど、アイゼヘルム子爵令嬢と城下町で仲睦まじくデートされたって本当ですの!?」
ゆったりとした音楽が流れる夜会会場には、エーデワルド王国を支える上級貴族の関係者が集い、華やかな時間が繰り広げられている。
夜会は伴侶探しの場としても活用されており、若い男女は目の色を変えている様子が見受けられるが、この場で伴侶探しをするつもりも必要もない僕は、マルグリットと共に爵位持ち貴族との社交に励んでいた。
正直なところ、夜会という場自体あまり好きではない。
ただどうせ交流するのならば、政務が円滑に回ることに寄与するような相手との関係を深めたい。
そう思って王城勤めの要職者との懇親を深めていたのだが、ちょうどその切れ目で、若い令嬢からの突撃を受けた。
確か最近父親が出世した侯爵家の令嬢だったはずだ。
一言二言会話を以前交わした記憶はあるが、さして親交があるわけでもない。
そんな侯爵令嬢が僕の隣にいるマルグリットをチラリと見つつ、唐突に前述の質問をしてきたのだった。
……なるほど。噂になってるのか。まあ、あれくらいの変装だったらバレても仕方ないしね。特に隠すつもりもなかったし。
それよりも第三者に仲睦まじく見えていたというのが嬉しい限りだ。
「さあ? ご想像にお任せするよ」
にこりと笑って僕は明言を避けた。
本当は声を大にしてそうだと言いたいところだが、ここで僕が肯定してしまえばシェイラにも迷惑がかかるかもしれないという心理が働いた。
それにマルグリットが婚約者筆頭として暗黙の了解を得ている状況も覆りかねない。
シェイラを完全な形で手に入れるまでは、マルグリットには悪いが、まだ女避けとして機能してもらいたいのだ。
その令嬢は引き際は心得ていたようで、僕が答えるつもりがないことを察すると「失礼しました」と大人しく去って行った。
「シェイラとデートですって? わたくし初めて聞くのですけれど、どういうことかしら?」
だが、周囲に人がいなくなったタイミングで、隣にいるマルグリットにジロリと横目で見ながら追求を受けた。
まるでお気に入りの人形を盗られたかのように不満げな顔をするマルグリットを相手に説明をするのは面倒だ。
僕は適当にはぐらかして、マルグリットから逃げるように一人でお手洗いへ向かうことにした。
そのお手洗いから会場へ戻る道中のことだ。
「あの、フェリクス様。どうしても相談したいことがあるのですが少々よろしいですか?」
ストラーテン侯爵家のカトリーヌ嬢がするりと僕の前に現れ、親しげに話し掛けてきた。
「フェリクス殿下、先程噂を耳にしたのですけれど、アイゼヘルム子爵令嬢と城下町で仲睦まじくデートされたって本当ですの!?」
ゆったりとした音楽が流れる夜会会場には、エーデワルド王国を支える上級貴族の関係者が集い、華やかな時間が繰り広げられている。
夜会は伴侶探しの場としても活用されており、若い男女は目の色を変えている様子が見受けられるが、この場で伴侶探しをするつもりも必要もない僕は、マルグリットと共に爵位持ち貴族との社交に励んでいた。
正直なところ、夜会という場自体あまり好きではない。
ただどうせ交流するのならば、政務が円滑に回ることに寄与するような相手との関係を深めたい。
そう思って王城勤めの要職者との懇親を深めていたのだが、ちょうどその切れ目で、若い令嬢からの突撃を受けた。
確か最近父親が出世した侯爵家の令嬢だったはずだ。
一言二言会話を以前交わした記憶はあるが、さして親交があるわけでもない。
そんな侯爵令嬢が僕の隣にいるマルグリットをチラリと見つつ、唐突に前述の質問をしてきたのだった。
……なるほど。噂になってるのか。まあ、あれくらいの変装だったらバレても仕方ないしね。特に隠すつもりもなかったし。
それよりも第三者に仲睦まじく見えていたというのが嬉しい限りだ。
「さあ? ご想像にお任せするよ」
にこりと笑って僕は明言を避けた。
本当は声を大にしてそうだと言いたいところだが、ここで僕が肯定してしまえばシェイラにも迷惑がかかるかもしれないという心理が働いた。
それにマルグリットが婚約者筆頭として暗黙の了解を得ている状況も覆りかねない。
シェイラを完全な形で手に入れるまでは、マルグリットには悪いが、まだ女避けとして機能してもらいたいのだ。
その令嬢は引き際は心得ていたようで、僕が答えるつもりがないことを察すると「失礼しました」と大人しく去って行った。
「シェイラとデートですって? わたくし初めて聞くのですけれど、どういうことかしら?」
だが、周囲に人がいなくなったタイミングで、隣にいるマルグリットにジロリと横目で見ながら追求を受けた。
まるでお気に入りの人形を盗られたかのように不満げな顔をするマルグリットを相手に説明をするのは面倒だ。
僕は適当にはぐらかして、マルグリットから逃げるように一人でお手洗いへ向かうことにした。
そのお手洗いから会場へ戻る道中のことだ。
「あの、フェリクス様。どうしても相談したいことがあるのですが少々よろしいですか?」
ストラーテン侯爵家のカトリーヌ嬢がするりと僕の前に現れ、親しげに話し掛けてきた。