平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です
俺はなによりもシェイラの美貌が一番好きだったわけだが、こういう控えめなところも好ましいと思っていたことを今になって思い出した。

一度それを認識してしまえば、あとはもう次から次へとシェイラの良さが脳裏に蘇ってくる。

 ……なぜ俺はシェイラのことを容姿だけしか取り柄がないなどと断じてしまったのか。確かに容姿は誰とも比較できないほど飛び抜けて美しいが、中身がないということは決してなかったのに。

冷静になればそれがよく分かる。

あの時の俺は冷静ではなかった。

婚約者だというのになんだかんだと言って俺との触れ合いを避けるシェイラへの不満が燻っていたところをカトリーヌに上手く転がされてしまったのだ。

抱擁や口づけなどシェイラはさせてくれないことをカトリーヌは受け入れてくれて、自分の方からも積極的にしてきてくれた。

 ……ああ、そうだ。俺はそれに惑わされてしまったんだな。

今思えば婚約者でもない男と簡単にそういうことをするカトリーヌはただの身持ちの悪い女だ。

逆にシェイラは多少堅物すぎるきらいはあるが、貞操観のある身持ちの良い女性だと言える。

あの美しさに魅せられてどうしてもシェイラに触れたいという思いが溢れ出てしまい、結果として俺はその欲求を他の女で発散し、あろうことか一時の心変わりをしてしまったというわけだ。

 ……俺は馬鹿だったな。シェイラの卒業まで待ちさえすれば、彼女は俺の妻となり、思う存分に我が物にできたというのに。あと一年だけ我慢すれば良かったのだ。

その一年がまもなくに迫っている。

数ヶ月もすればシェイラは卒業を迎え、晴れて成人となるのだ。

この前偶然に王城で顔を合わせた時には、ますます美しさに磨きのかかったシェイラを目にしてなぜ手放してしまったのかと悔やんでも悔やみきれない気持ちになった。

だが、まだ遅くはない。

シェイラはまだ誰とも婚約しておらず、誰の物でもないのだ。
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